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2008年09月05日

『東南角部屋二階の女』
池田千尋(監督)インタビュー

 日本初の国立映画大学院として設立された東京芸術大学の映像研究科。映画芸術DIARYでは昨年5月、同科の一期生が修了作品展を開いた際に、監督領域、脚本領域、製作領域の3名にお話を伺いましたが、その時、インタビューに応じてくれた大石三知子さん(脚本領域)と池田千尋さん(監督領域)が、9月20日から渋谷ユーロスペースなどで公開される『東南角部屋二階の女』で商業映画デビューを果たしました。
 本作の撮影は『ユリイカ』や『サッド ヴァケイション』(ともに青山真治監督)などで知られるベテランのたむらまさきさんが担当し、西島秀俊さんや加瀬亮さん、香川京子さんという錚々たる俳優陣が出演しています。初めての商業作品に気負いはなかったのか、またプロフェッショナルなスタッフ、俳優陣との仕事に戸惑いはなかったのか、弱冠27歳で今後の活躍も期待される池田千尋監督に本音を伺ってみました。
(取材・構成:平澤竹識)

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「言葉じゃないところで人物の変化を描きたい」

――池田さんには去年、東京芸大の修了作品展のときにも話を伺ってるので、いきなり映画の話に入っていきたいと思います。まず、『東南角部屋二階の女』を監督することになった経緯を聞かせてもらえますか。

去年の七月頃、プロデューサーの磯見(俊裕)さんから「小さい映画があるんやけど、おまえやるか?」みたいな電話をもらったんですね。わたしも芸大を出て先の見通しが何もない状態だったので、「是非お話を聞きたいです」と答えて、その翌々日ぐらいに会ったんです。その時に出されたのが、大石(三知子)さんが芸大の卒業制作として書かれた『東南角部屋二階の女』のシナリオでした。磯見さんが大石さんのシナリオを預かっていて「いつか映画にしたい」と話しているという話は噂に聞いてたんですけど、まさかそのシナリオが出てくるとは思わなかったので、その時はびっくりしました。しかも、すでにカメラマンはたむら(まさき)さんと決まっていて、西島(秀俊)さんと加瀬(亮)さんのキャストもほぼ決まっている状態だったんです。「どうだ、できるか?」と言われまして、その日のうちにシナリオを読んで、次の日に「やりたいです、やらせてください」と。

――磯見さんが東京芸大の助教授を務めている関係で、大石さんの脚本を池田さんが監督するという組み合わせが生まれたわけですよね。

そうですね。どうしてわたしを選んでくれたのかを聞いたんですけど、どうも磯見さんは修了作品の『兎のダンス』(07)を気に入ってくれていたみたいなんです。今回の作品はたむらさんがカメラマンとして初めに決まっていたので、誰と組ませたら面白いかと考えた時に思い浮かんだのがわたしだったという話を後になってから聞きました。

――池田さんは『兎のダンス』で渡辺真起子さん、『四谷怪談』(07)では中村優子さんといったプロの俳優を使っていますが、それにしても初めての商業映画で撮影がたむらまさきさん、主演が西島秀俊さんというのはプレッシャーじゃなかったですか。

その時点であまりそういう意識はなくて、脚本をどうしようという不安しかありませんでした。大石さんの書かれたシナリオは芸大にいた頃から好きだったんですけれども、監督する立場として『東南角部屋二階の女』を読んだ時に、わたしが撮ってきた映画とは全然テイストが違うものだったので、これを自分が演出しきれるだろうかと悩んだんです。ただ、脚本の直しには深く関わってもいいという話だったので、だったら脚本の持ち味を壊さずに自分の世界に引き寄せながら映画にできるんじゃないかと思ってやらせてもらうことにしました。

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――ちなみに完成した映画と池田さんに打診があった時の脚本はだいぶ違うものなんでしょうか。

登場人物の関係性も展開もかなり変わってますね。

――使われなくなった古いアパートがあり、それが縁で繋がっている年配の男女がいる。そのアパートに若い男女が転がり込んできて、最後にはそれぞれの人物に変化が生まれるという大筋の流れがありますが、その辺りも変わっているんですか。

その基本構造は変わってません。一番変えたのは、若者と年配の男女が交流し合うという、この作品の肝になっているドラマ部分でした。最初のシナリオでは人物の交流が会話を通して描かれていたんです。何かの事件が起きて、その体験を共有することから人物同士が触れ合い変化していくというのではなく、言葉を介してなんとなく変化していくという感じで。ただ、わたしには言葉じゃないところで人物の変化を描きたいという思いがあったので、それを大石さんに提案して直しを進めていきました。

――直しの作業はどういう形で進められたんですか。

大石さんと顔をつき合わせて話し合いながら進めていきました。週に1回ぐらいプロデューサー、ラインプロデューサー、カメラマン、キャスティングの方なんかと集って、みんなで脚本について話す会というのを開いていたんです。そこに二人で脚本を持って行って、直しの意図を説明したりするんですね。で、その後の一週間で大石さんとガーッと直して、また会議に持って行くということを繰り返して完成形に近づけていきました。

――その会議の中で、プロデューサーの磯見さんからは例えばどんなことを言われるんですか。

老人と若者達が世代を超えて関わり合うことで、若者達それぞれの明日が何かちょっと違って見えてくる、そういう話にしてくれということは最初から言われていました。細かいことはおっしゃらなかったですけど、たまに「おれ、このシーン好きやけどな、なんで消したん?」とか言われることはありましたね(笑)。

――大石さんとも話し合い、スタッフとも頻繁に話し合うのは大変だったんじゃないですか。

「ちょっとやってみます」と言いながら、直してきたシナリオでは全然違うことをやっていると何度も注意されたんですけど(笑)、会議でいろいろ言われた後に大石さんと確認するわけですよ。「でもわたしはこう思うんです」「わたしもそう思う」「じゃあそれでいきましょう」という感じのやり取りを毎回していたので、それほどブレることはなかったですね。

――聞くところだけ聞いて、譲れないところは譲らなかったと。

そうかもしれませんね(笑)。

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「いま撮れた、掴めた」に至るまでの壁

――スタッフとのやり取りについては、芸大時代とあまり違いは感じなかったですか。

芸大時代はスタッフも自分とそんなに変わらないレベルの人達でしたけど、今回のスタッフはみなさん経験が豊富で、わたしとは力量が明らかに違います。でも、監督としてはそういう人達の上に立たなければいけないというジレンマがあって、その差を埋めようと焦ってしまった時もありました。

――そのジレンマというのは具体的に、どういうところで感じるものなんでしょうか。

準備中は目の前にある物事を片付けていくだけで必死だったので、それほど危機感は持っていなかったんです。最初にやばいなと思ったのは衣装合わせの時でした。衣装合わせでは、広い部屋の片側に机が並べてあって、反対側の隅に衣装が置かれてるんですけど、監督、助監督、カメラマンなどのスタッフがその机に座るんです。で、その前に役者さんを立たせて衣装の良し悪しを見るというスタイルなんですね。わたしは机の後ろに座って意見を言うというのが嫌で、学生時代から役者さんの方へ近づいて、みんなで一緒に考えるというやり方をしていました。それで今回も、衣装合わせを始めますという時に、席を立って役者さんがいる方に出ていったんです。でも、その日の最後に、たむらさんから細かいことをいろいろと突っ込まれたんですね。きっと何かずれたことをやってしまったんだろうと思ってスタッフの方に相談したら、席を立って役者さんの方に行ったことがいけなかったんじゃないかと言われたんです。監督なんだから、どっしり構えて、いいとか悪いとか言っていればいいんだよと。たしかに衣装合わせの時、わたしが前に出てしまうと、スタッフの方も「たむらさん、どうですかね?」という感じになってしまう。やっぱり、誰もがたむらさんはどう思っているのかということを気にしているんですね。わたしも何か変だぞ、滑ってるぞと感じながら、どうしたらいいのか分からずに空回りしてしまって、その日の夜は、どうしたらいいんだろうと真剣に悩みました。

――つまり、池田さんが監督という立場から滑り落ちて、その空いたところにたむらさんがぴたりとはまってしまうような状況になるわけですね。

そうですね。だから、このままじゃ監督としてちゃんと現場を掴むこともできなくなるんじゃないかと本当に不安になりました。わたしとしては常に役者さんの傍にいてあげたいという気持ちがあるので、衣装合わせの時も役者さんの近くへ行ってしまったんですけど、それではスタッフが誰も付いてきてくれない。そのギャップに戸惑いを感じたし、悔しくもありました。一瞬、このまま前に出続けてやるぞとも思ったんですけど(笑)、それはやめて翌日の衣装合わせでは椅子に座るようにして。そうすると進行はそれなりにスムーズにはなったんですけど。

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――撮影前、たむらさんとどんなやり取りをしていたんですか。

『兎のダンス』の時と同じように、シーンの狙いやある程度のカット割について二人で話し合いました。ただ撮影に入ると、そこで起こっていることに対してカメラをどう置くかということでしかなくなるので、その話し合いが一回ゼロになってしまうんです。『兎のダンス』のカメラマンの馬場(一幸)さんは、わたしと同じぐらいのレベルで、現場では同じように迷いがあるし、それを補い合って作業していくことができたんですね。でも、たむらさんは自分よりずっと上のところにいる方なので、スピードがまず違います。現場を掴むスピードも、それを作業に反映するスピードも速い。だから付いていけなくなるんです。現場に行ってわたしが準備してる間に、たむらさんはもうカメラを置いてるんですよ(笑)。

――他にも、なにか苦労したことはありませんでしたか。

あるシーンでカットをかけたら、たむらさんに「カットが早い」と怒られたことがあったんです。その次の日から、『兎のダンス』の時はできていたことができなくなってしまったんですね。というのは、現場をフッと掴んで、「よし今だ!」って撮り始めて「はいここだ!」ってところでカットをかけるという、肝心要の仕事がおぼつかなくなってきたんです。すごく単純なことなのに、いつカットをかけたらいいのか分からない。その時に、私はいま自分を見失いかけてるぞ、ということにはっきり気付きました。わたしには、これだけは必ずやらなければいけないと思っていることがあって、それは役者さんが「よーいハイ!」から「カット!」までを演じる間にどう感じているのか、とにかく見てわたしも感じるっていうことなんです。そこに集中することが一番自信のあるところだったんですけど、それすらも見えなくなって、ぼんやり霞がかっているような感じなんですね。つまり、たむらさんの存在とかいろんなことを気にしすぎたり、そのレベルに追いつこうと焦ったりしたことで、それまで自分ができていたこともできなくなっていたんです。それからは、毎日撮影が終わってウチに帰った後に一人反省会をしてました(笑)。でも結局、それは考えても全然意味のないことで、ただ自分が現場で落ち着いて、地に足を着けて立っていればいいっていう、それだけのことだったんですよね。

――撮影が終わるまで、その状態から抜け出せなかったんですか。

途中から徐々にペースを取り戻せていけたんですけど、それはたぶん役者さんとのコミュニケーションがだいぶ取れてきて、この人…分かってきた、この人…いまわたしのこと信用しようとしてくれている、ということを一つ一つ掴んでいけたのと、あとはスタッフの方が助けてくださったおかげですね。それで徐々に、やれることをやるしかないと思い直して、自分を取り戻せるようになったんだと思います。結果として、それができたと確実に思えたシーンが一度あったんですけど、それは、台風の翌朝に縁側に座っていた西島さんが庭へ歩きだすというところなんです。そのシーンを撮った時にようやく「あ、いま撮れた、掴めた」って思いました。

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演出とはなにか

――脚本作りの時点では上の人達からいろいろ言われてもブレなかったのに、現場でそこまで動揺されたというのは意外ですね。

いつもと同じ気持ちで現場に臨めばいいのだって最初は思ってたんです。いままで自分がやってきたことを信じて、同じように映画を作るっていうことだけじゃないかって。もちろん、たむらさんと組むことについては、すごいビビッてはいたんですけど(笑)、それとは別に「いつもと同じようにやればいいのだ」と思っていた、その「いつも」が通用しない場面がいっぱいあったんですね。衣装合わせのこともそうですし、例えば現場のペース、今回で言えばカメラマンのたむらさんのペースですけど、それがわたしの持っているペースとは全然違う。その時に、たむらさんのペースに追いつこうとするあまり、自分のペースを見失ってしまったところもありました。

――先ほどの「カットが早い」という話なんですが、その「早い」というのは秒単位で早いとか、そういう意味なんですか。

完全に空気の問題なんです。役者さんは「よーい、ハイ!」からお芝居に入りますよね。で、ある瞬間に、集中力が切れたとか、いま終わったとか、見ていると分かるんですね。監督はその空気を感じなきゃいけないんです。気持ちいいタイミングでカットをかけるか、わざと伸ばすのか、もう少し詰めるかっていうのは戦略だと思うんですけど、その空気を感じるっていうことが大事なんですよ。だけど、わたしは途中でカットをかけるタイミングが分かんなくなっちゃった時に、カットをかけるのが怖いから、カットをかけるのがやたらに遅くなったんです。まだかな、もういいかな、うんとうーんと……「はいカット!」みたいな(笑)。それは現場にいる人にとってはすごく気持ちの悪いことなんですよ。カットがかかった時に気持ちよく終わるか、気持ち悪いなぁと終わるのか。それだけで現場の空気は変わってしまうので、それができていないと感じた時はつらかったですね。

――その時は、わざとカットを遅くしているかのように装って切り抜けたわけですか(笑)。

いや、単純に「こいつ、テンパってんな」って感じだったと思います(笑)。でも、現場自体の雰囲気はすごくよかったんですよ。役者さんもみんな映画が好きで、お芝居が好きな方達だったので、わたしの言おうとしていることをすごく飲み込んでくれて、そういうところはうまくいってたんです。その一方で、わたしは毎回ポカをやっている感じだったので、その度に役者さんに気持ち悪い思いをさせて、やる気をそいでないかってことが心配で、それはずーっと最後まで悩みながらやっていました。

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――ちなみに撮影期間はどれぐらいだったんですか。

20日間ぐらいですかね。照明の平井(元)さんは佐藤譲さんの一番弟子で、照明をほとんど焚かないスタイルですし、たむらさんの撮影もスピードが速いので、だいたい撮影時間は短く済んでいました。きっと外側から見たら、すごいスムーズな撮影だねぇという感じだったと思います(笑)。学生の時ってセッティングに時間がかかりますよね。でも今回の経験で、実はその時間が結構大事だったりするものなんだと感じました。役者さんと話したり、芝居について深く考えたりする時間がほんの5分か10分あるかないかで全然違うんです。

――プロのスピードに翻弄されてしまった面もあったんですね。しかし、撮影前の話し合いである程度は、たむらさんとの間でコンセンサスが取れていたんじゃないんですか。

たむらさんに大体ここはこういう動きにしてみようと思いますって伝えますよね。でも、現場に役者さんが入ってきたら、そんなのいくらでも変わるでしょう?というのがたむらさんの考え方なんです。そこでわたしがどう反応するか、たむらさんが一番不満足だったのはその部分だと思います。今回たむらさんから「導く人なんです、あなたは」と言われたんです。役者さんに対して、こう動いて、ここで座ってください、なんて言うのはとっても簡単なことで、その段取りをいかに越えるのかというところが見たい。そこまで導かなきゃいけないのに、あなたはまだそこへ導いていない、ということをおっしゃられたんですね。で、自分もそうしたいけれども、自分がいま確実にできることをやりたいという思いもあって、その差は埋まらないままでした。もちろん、たむらさんはそれでも撮ってくださるんですけど、もっと越えさせないのか? 言った通りのことやってるだけじゃないか、という思いを抱いていらっしゃったと思います。

――その「越える」というのは具体的に言うと、どういうことなんでしょう。

例えば役者さんに、あなたはいまこういう状況で、こういう感情を抱えています、と伝えたとしますよね。それで、とりあえず部屋のA地点からB地点に移動してもらうという時に、「そこからそこまで歩いてください」と伝えたら普通にそうなるだけですよね。でも、そこにもし感情が入ってきたら、絶対その通りにはならない。途中で座ってしまったり、立ち止まってしまったりということが起こるはずなんです。思えば、『兎のダンス』の撮影で主演の伊藤(沙莉)さんとやっていたのはそれに近いことだったんですね。わたしは彼女に動きの指示をほとんど与えないで、「あなたいまこういう気持ちなんだよね。それでたぶんこうすると思うんだけど、どう思う?」と言ったら、彼女が思いも寄らなかったものを出してきたりするんです。そうやって役者さんを引き上げてあげることが監督の仕事なのに、もしかすると今回はそこまで行くことができなかったのかもしれない。でも、『兎のダンス』でなぜそれができたのかと言うと、彼女がまだ14歳という年齢で、しかも一対一でずっと向き合える小さな作品だったということもあると思います。

――過去の池田さんの作品を観ると、役者さんの演技に異様な緊張感が漲っている印象がありますが、今回の作品ではみなさん割合淡々と演じられていますよね。それで結構自由に演じさせていたのかなと思ったんですが、実際のところはどうだったんでしょうか。

その違いについては、今回の映画が自分の書いた脚本ではないというのが大きいと思います。お話の内容的にも役者さんをギュッと追い詰めていくというものではなかったですし。なんでしょう。わたしは役者さんに対して本当に力を注いでしまうんですね。言わなくていいかもしれないことまで言ってしまうんです。ここはこうでこうでこうだと思うんです、みたいに(笑)。わたしがそんな風に集中しているのを役者さんも感じていくというか、それで緊張感のようなものが出たシーンがたまに生まれるということなんだと思います。ただ今回は、役者さんに話しすぎず、もっと自由にさせなさいと言われて、最初につまずいたところもありました。自分がいつもやっていることはよくないと言われている、じゃあどうしたらいいんだ?と。

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『東南角部屋二階の女』を終えて見えてきたもの

――今回はキメたフレームもあまりないですし、演技の印象も全く違ったので、『兎のダンス』の世界を期待していた自分としては少し拍子抜けしたところもあったんです。ただ、自分の信じてきたものを一度ガツンと否定されたというのは、これから先のことを考えるとすごくいい経験だったんじゃないですか。

撮影しながら毎日毎日いろんな人から引き出しをもらっている感じはありました。本当は監督がみんなに引き出しを作ってあげなきゃいけないのに……(笑)。

――たむらさんと何度も仕事をしている青山真治監督でさえ、たむらさんの本(「酔眼のまち――ゴールデン街1968〜98年」)のあとがきでは、自分を「猛獣使い」と喩えていたぐらいですし、27歳の商業デビュー作で全てうまくいくということはないんじゃないですかね。

たむらさんと組めることはすごいことだとは思ったんですけど、きっとすごいことだと思いすぎたんですね(笑)。それはたむらさんにも完全に見抜かれていて、「あなたはここにいる表現者全員の代表なんですから」と言われました。たむらさんとしては、自分のことをいちいち気にするなという思いでいてくださったんだと思います。準備中に飲んだ時に「わたしは首に手綱を付けて引っ張ってもらいたいんです」とおっしゃっていたぐらいですから。

――まさに「猛獣使いになれ」ということですね(笑)。

今回わたしとしては、人の書いた脚本を演出するというのが、ものすごく難しいことだったんですね。自分が書いた脚本であれば、自分の中にあるものが出てきているので、演出する時にもブレることはないんです。なにが正しいか、間違っているのか、というのがクリアに分かる。それが、人の書いたものを飲み込んでいると、結局飲み込んでいるというだけなので、ブレ幅がどうしても大きくなるんです。自分はこうするのが一番いいと思う、でもこういう意見が出ている、となった時に、そっちの方がいいかもしれないと思ってしまうんですね。そんな迷いのある状態でたむらさんと初めて組んだので、本当の気持ちを言えば、いつか自分の書いた脚本を撮る時にもう一度組ませてもらいたい。ただ、今回いろんなことがありながらも映画が完成して、何よりプロデューサーのお二人が満足してくださったようなので、その達成感は大きいですね。

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――たしかに何の先入観もなく観れば、普通にいい映画だと思います。

でも、それには葛藤があるんですよ。本当は、観終わった後に「いい映画だったねぇ」と言われるようなものにだけはしたくないと頑なに思っていたんです(笑)。わたしには以前から、観た人の心にどんな形でもいいから引っかき傷を残したいという衝動があるんですね。もちろん、今回の作品も自分がやりたいと思って演出をして、手抜きも一切していないけれども、わたしが撮りたいのってこういう映画だっけ?という自問自答は何度もしました。その一方で、この映画はまずプロデューサーの磯見さんと石毛(栄典)さんから生まれている。そこに大石さんがいて、というところに自分が乗っかっている形だったので、自分の意思ばかりを先行させてはいけないという気持ちもあったんです。だから、ずっとその狭間で悩みながらやっていましたね。

――でも、人の意見や考え方を受け入れたことで、これまでの作品にあったトゲのようなものが取れて、観客が受け入れやすくなった面もあるんじゃないですか。『兎のダンス』より『東南角部屋二階の女』の方がいいという人も出てくると思います。

そうなんです。2〜3年前までは自分にそういう映画が撮れるとは思ってもいなかったので、「あ、できた!」と思ったんですね。だから、自分の幅が広がったというのは、この映画を作って実感しているんですけど。

――最後に今後の活動について伺いたいんですが、次回作の予定はあるんですか。

全くないです(笑)。

――では、次に撮りたいと思っているテーマや題材があれば教えてください。

次は30代の男女の、ある愛に関する物語をガッツリやってみたいと思っています。『四谷怪談』でもやりたいと思っていたことは少しできた感じがあるんですけど、それをリアルな世界観の現代劇でやってみたい。人間て好きとか嫌いとか、愛みたいなものを求めてゴシャゴシャしてますよね。それがすごく不毛であるのに、でも求めてしまうという、そういう話をやりたいです。

(平成20年7月22日 トランスフォーマーにて)

『東南角部屋二階の女』
監督:池田千尋
脚本:大石三知子
プロデューサー:石毛英典、磯見俊裕
撮影:たむらまさき 照明:平井元 録音:南徳昭 編集:大重裕二 
音楽:長嶌寛幸 美術:三ツ松けいこ
出演:西島秀俊、加瀬亮、竹花梓、塩見三省、高橋昌也、香川京子 ほか
2008年/日本映画/104分/35mm/スタンダード/DTS-SR
(c)2008 Transformer, Inc.

公式サイト:http://www.tounankadobeya.com/

9月20日(土)ユーロスペース、シネマックス千葉ほか全国順次公開!

【イベント情報】
9月20日(土)ユーロスペースにて西島秀俊、加瀬亮、竹花梓、大谷英子、塩見三省、香川京子、池田千尋監督による初日舞台挨拶
詳細は公式サイトをご覧下さい(www.tounankadobeya.com)

9月27日(土)川崎市アートセンター 12:30の回上映後
池田千尋監督 × 脚本家 大石三知子 × スクリプター・脚本家 白鳥あかね

9月28日(日)ユーロスペース(予定)
香川京子 × 池田千尋監督

10月4日(土)川崎市アートセンター 13:30の回上映後
香川京子 × 佐藤忠男










posted by 映芸編集部 at 11:32 | インタビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする