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2008年10月04日

映芸マンスリーVOL15『茨の同盟』
吉田和史(監督)・野村正昭(映画評論家)トークショー

 「映芸マンスリーVOL15」の上映作は、女優・沢田亜矢子さんとの離婚騒動でマスコミのバッシングに遭い、その後は歌手デビュー、ホスト転身、整形手術などの話題を振りまいてきた「ゴージャス松野」こと松野行秀さんを追ったドキュメンタリー『茨の同盟』。本作は、地元・福島でのプロレス興行に向け奮闘する松野さんに密着しながら、マスコミでは報じられない松野さんの苦悩や、彼を支える地元の人達をつぶさに見ていくことにより、マスコミ報道のあり方を静かに問いかける内容となっています。
 本作は湯布院文化記録映画祭の松川賞入賞作ということもあり、上映後には映画祭の審査員を務めた映画評論家の野村正昭さんも交え、吉田和史監督によるトークショーが行われました。
 なお明日、10月5日(日)には松川賞入賞作5本が御茶ノ水のneoneo坐にて上映されますので、興味を持たれた方は本作をそちらでご覧になることができます。
(司会・構成:平澤竹識 構成協力:中川志都)

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左から野村正昭(映画評論家)、吉田和史(監督)

――この作品は湯布院文化記録映画祭の第一回松川賞に入賞しているんですが、この映画祭と松川賞のことを知らない方が多いと思いますので、審査員として関わっている野村さんのほうから、映画祭と賞の概要を簡単に説明してもらえますか。

野村 湯布院は夏の映画祭が全国的にも有名なんですが、文化記録映画祭のほうは今年の5月で11年目。私は映画祭立ち上げの時から声をかけてもらって、それ以来ずっとこの映画祭に関わっています。松川賞と言われてもピンと来ない方も多いと思うんですけれども、松川八洲雄さんという監督さんがいらっしゃいまして、世間的に有名なところでは黒木和雄監督の『とべない沈黙』(66)の原案、脚本を担当されてる方です。ただ、それは彼の活動のほんの一部で、記録映画の世界では様々なジャンルの作品を撮られている第一人者なんです。それで、1回目の文化記録映画祭の時から9回目くらいまで毎年精力的に新作や旧作を持ってきてくださって、湯布院の方たちともかなり親しい間柄になっていました。残念ながら、2006年の秋に亡くなられまして、その後、彼の業績を偲んで松川賞という記録映画の賞を作ろうという話になったんです。今年がその1回目ということで、土本典昭さんや筑紫哲也さん、作家の森まゆみさんといった方が最終選考委員を務めました。結果的にかなりの本数が集まった中で『茨の同盟』は5本の入賞作品うちの1本に選ばれたということですね。

――その選考過程では『茨の同盟』を巡って、どういう議論があったんでしょうか。

野村 真っ二つに分かれました。とにかく女性陣から総スカンだったんです。予備選考の段階では「こういう男を甘やかすから日本はだめになるんだ」みたいなことを言い出す女性スタッフもいたぐらいで(笑)。ただ、男性陣はわりと寛容に受け止めていて、ゴージャス松野という人に良い印象はなかったけど、映画を観ていくうちに「こういうことだったのか」みたいな感じでほだされていくというか。僕自身も、ダメな男とそれを支える女の話として、すんなり飲み込めたんですよ。結果的に大賞に選ばれた『緑の海平線〜台湾少年工の物語』という作品は、台湾で戦時中に徴用された少年兵がその後どんな運命を辿ったかということをオーソドックスかつ巧みなテクニックで描いているんです。予備選考段階から大賞はこの作品になるだろうという声が多かったんですけど、『茨の同盟』は大穴もしくは対抗みたいな評価でしたね。

――吉田さんは女性のそういう意見に対してはどう思われますか。

吉田 心外ですね(笑)。なんでゴージャス松野がここまで嫌われなきゃいけないんだと、我が事のように思いますけれども。

――ちなみに大賞の『緑の海平線』にあって『茨の同盟』になかったものというのは何なんでしょうか。

野村 作品の色合いが全然違うから仕方ないんじゃないかなって思います。やっぱり文化記録映画祭に来る人や上映に関わっている人は真面目な方が多いんですね。だからといって『茨の同盟』がふざけてるというわけじゃないんですけれども、そういう点ではテーマといい撮り方といい『緑の海平線』が大賞を獲るのはしょうがないのかなと。『茨の同盟』は今日が東京での初上映になると思うんですけれども、いろんな映画祭に応募してみるのがいいんじゃないでしょうか。

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――吉田さんの経歴についても伺いたいんですが、大学を出てから早稲田の川口芸術学校に進まれてるんですよね。いつ頃から自分で映画を撮りたいと思うようになったんですか。

吉田 大学時代から映画を撮りたいという気持ちは持ってなくて、卒業してから一旦、眼鏡屋に就職したんですよ。それで眼鏡を売ってたんですけど、おばあちゃんに18金の眼鏡を薦めて「お似合いですね」とか言ってるのはなんか違うんじゃないかと(笑)、そういう気持ちが芽生えてきたんです。大学時代は音楽をやってたんですけど、映像を選んだ理由が自分でもわからなくて、本当になんとなくなんですよ。地元の埼玉に早稲田の芸術学校ができたのがきっかけで、仕事を辞めて通い始めたんですよね。

――でも、どうしてドキュメンタリーを撮りたいと思ったんですか。

吉田 最初は映画に特別興味もないまま学校に通い始めたので、入ってから自分がグッとくるものを見つけられたらいいなというぐらいの感覚だったんです。そういう中でドキュメンタリーをやっていた同級生と親しくなって、森達也さんや原一男さんのドキュメンタリーを知ったんですね。そうした作品を観るうちに、ドキュメンタリーには自分が思っていた以上の可能性があるんじゃないかと思うようになって。それからすぐに撮ったのが『茨の同盟』なので、これは自分では初めて撮ったドキュメンタリー作品なんです。

――なんでまたゴージャス松野さんを撮ろうと思ったんですか。

吉田 僕が芸術学校にいた当時、ゴージャス松野という人は既にテレビからほとんど消えたような存在で、その7〜8年前に沢田亜矢子さんとの離婚騒動で騒がれたという経緯がありました。それがまぁ、自分の何かに引っかかったんでしょうね。僕には嫌われている存在に肩入れしたくなるようなところがあって、世間は「気持ち悪い」「うざい」という一言で済ましちゃうけど、それでいいのか?っていう気持ちがありました。だから、松野さんが実際にどんな人で、今どうなっているのかということを自分の目で見極めたかったんです。

――この作品を見たとき、先ほど名前が挙がっていた森達也監督の『A』というドキュメンタリー作品を思い出しました。あちらはオウム真理教の信者の方を撮っていて、この作品とは被写体も色合いも全然違うんですけど、マスコミに排斥された人をつぶさに見ていくという点で共通しているように感じたんです。

吉田 僕も最初はマスコミが伝える松野さんの姿に違和感があって、この作品は違うアプローチで撮りたいと思っていたので、もしかすると共通している部分があるのかもしれません。

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野村 どうやって松野さんと接触したんですか。

吉田 最初に松野さんの「身をさらしてこそ浮かぶ瀬もあれ」という本を読んだんですよ。どこまで本当の話かは分からないんですけど、マスコミに叩かれた当時、どういうつらい思いをしたとか、拾ってくれる人がいたとか、そういう話が載ってるんです。その出版社に電話をしたのが最初ですね。そのときにたまたま、TBSのサンデージャポンという番組の取材で松野さんが東京に来るという話を聞いたので、それに合わせて撮影を始めようということで、企画書を送ったりして。当時はまだ学生だったので勢いでいっちゃって、会うことはすぐできましたね。

――でも、世間で「どうしようもない人」というレッテルを貼られている人が、実際にどうしようもない人だったりすることもあるわけじゃないですか(笑)。完成した映画は「松野さんだってがんばってます」という作りになってますけど、実際のところはどうだったんですか。

吉田 やっぱり最初は自分なりに想像を膨らませて、取材をするうちにこういう部分が見えてくるんじゃないかみたいな見通しを立てるんですけど、やっぱりその通りにはならない。思った以上に無口な方ですし。

野村 でも、映画の中では結構喋ってらっしゃいますよね。

吉田 インタビューで「はい!」と声がかかると話してくれるんですけど、普段は本当に口数が少ないですから、スタッフの間では「この人を主役にして大丈夫なのか?ちゃんと作品になるのか?」みたいな話にはなってました。あと、松野さんはテレビに慣れてるから、カメラをすごく意識するんですよ。ずっとカメラ目線で喋ったりするので、このままじゃ「虚構のドキュメンタリー」しかできないなということは思いましたね。

――この映画は、「ゴージャスナイト」というプロレス興行がクライマックスにあって、その何日か前から○月○日という字幕とともに進行していきますけど、取材はもっと前からやってるわけですよね。

吉田 映画に映っている2週間がほぼそのまま取材していた時期なんです。だからもう、映画にある9月1日ってところから撮影も始まったっていう感じで。

――そのわりには2人ともずいぶんリラックスしていますね。

吉田 その前に一度福島へ行って、松野さんの営業を手伝ったんですよ(笑)。だからじゃないですかね。役場のような所で慰労祭みたいなイベントがあって、その歌謡ショーに松野さんが出てたんです。それを手伝ったぐらいしか、関係性を築ける機会がなかった。でも、松野さんも撮影が進むうちにカメラを意識しなくなってきたので、撮影する中で歩み寄れた部分もあるのかなぁと思いますけど。

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――映画は松野さんを主役にしつつ、彼を支える田代純子という女性、そして2人の周囲にいる福島の人たちの存在にも焦点が当てられています。そういう構成にしようというのはどの段階で決められたんですか。

吉田 最初に松野さんと会ったときに田代さんもいらっしゃって、その時点で二人の関係を軸にしようというのは決まってたんです。でも、そこからさらに地元の人たちにまで話を広げたというのは、本当に撮っているうちにそうなっていったという感じで。

――メインの2人だけでなく、彼らを支える地元の人たちがすごく生き生きと撮られているのが個人的には面白いなぁと思ったんですが、野村さんはこの作品に対してどういう感想を持たれましたか。

野村 この前、織田作之助原作の『秋深き』という映画を試写で観たんですが、その後ある女性ライターと話していたら、「これじゃまるで女がペットみたいだ」って怒ってるんです。だから、ダメな男を女が支えるという織田作之助の世界は、男の願望なのかなぁっていう気がしたんです。その一方で、最近の『花より男子ファイナル』とか『セックス・アンド・ザ・シティ』とかを観てみると、あれはあれで女の妄想じゃないですか。生身の男は1人もいなくて、男は王子様かオカマしか出てこない。つまり、ドラマの世界では男女の願望が二極化して暴走してるんだけれども、皮肉なことに『茨の同盟』ではその着地が一番うまくいっていて、なおかつ緩和剤として福島の人たちの存在がちゃんと機能している。そういうところが映画としてすごく面白いなっていう気がします。ちょっと質問なんだけど、画面がセピア、モノクロ、カラーに分かれてるのはどうして?

吉田 一つは、劇映画とドキュメンタリーと区分けできないような作品を作りたいという思いがあったんです。なんとか劇映画のような形で感情移入できるような作品にしたかった。あとはカラーにすると生々しくなるんですよ。松野さんが着ている衣装のケバケバしさとか、そういうものが際立ってしまうんです。そういう色を消すために、モノクロやセピアにしたところがありました。結局、撮ってるのは普通の生活じゃないですか。でも「ゴージャス松野」というのは虚構の存在なんですね。画面の色を変えることで、その落差を出せるのかなっていう狙いもあったんですけど。

――画面の色以外にも、この映画では字幕をバンバン出していくじゃないですか。ドキュメンタリーでありつつも、ある程度は作者が意図的に構築してしまっていいじゃないかと開き直っていたんですか。

吉田 これはドキュメンタリーだから現実感を出すべきなのか、それともドラマのように作り込んだほうがいいのかっていう迷いはありました。でも、僕が現場で体感した世界をただ並べただけでは自分の思いを表現できなくて、やっぱりその世界に色を塗ったり、テロップを出したりして作りこんでいく中で、初めて自分の意図が出せたりするんです。その反面、普通なら切り捨てがちなディティールを残したりして、作り込むところとそうじゃないところのバランスは意識してましたね。

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――変な話になりますが、松野さんとしても、自分をこの映画で売り出してもらえればいいなという期待があって、そこで利害が一致したところもあったんでしょうか。

吉田 たぶんあったと思いますね。本人としては、テレビの「情熱大陸」みたいなものにしたかったかもしれません(笑)。

野村 完成した作品はご本人に見せられたんですか。

吉田 ええ。「よくできてるよ」みたいな感想をもらいましたけど(笑)。

――つまり最終的に出来上がった映画は、松野さんの「自分をこう見せたい」みたいな期待をはみ出すものじゃなかったということですね。

吉田 自分としては撮影中から、松野さんの宣伝映画にならないようにしたいとは思っていたんです。地元の人たちに目が向いたのも、そういう事情があったんですよね。ゴージャス松野だけを撮っていたら、向こうの思惑をはみ出すものにはなりえない。だから、田代さんや地元の人たちの中にゴージャス松野がいる、という関係性に置き換えて撮るようになっていったんです。

――ゴージャス松野が虚像であるにしても、松野さんのがむしゃらさとか、地元での付き合いとか、そういうものって今の特に若い人たちから敬遠される部分じゃないですか。そういうところにカメラが向けられているのは、現代社会へのアンチみたいなメッセージもあるのかなと思ったんですが。

吉田 僕は二十代の後半で、就職する時はちょうど就職氷河期だったんですけど、そういう時に今は誰も手を差し伸べてくれないじゃないですか。すべてが自己責任ということになってしまう。でも、松野さんの周りには田代さんにしても福島の人たちにしても、そういう受け皿が残っていて、そこに惹かれたところはあったかもしれませんね。

野村 湯布院の選考会でも話題になったんですけど、『茨の同盟』っていうタイトルがいいですよね。最初は何のことか分からないんだけど、映画を観てくうちに「ああそういうことか」と納得させられる。絶妙のタイトルだなぁと思ったんですが、これは監督が考えたんですか。

吉田 それはですね……パクりました(笑)。80年代のイギリスに「ザ・スミス」っていうバンドがあって、モリッシーというボーカルがいるんですけど、彼はもともと陰気な引きこもり青年だったんです。で、そこにジョニー・マーというギタリストが訪ねてきて、一緒にバンドを結成することになるんですけど、そのバンドの成り立ちが書かれた「茨の同盟」という本があるんです。結局、松野さんを引きこもり生活から引っ張り出した存在っていうのも田代さんだし、二人の関係はただの男女関係ではなくて利害関係も含んでいる。そういう意味では「茨の同盟」というタイトルはいいんじゃないかと思って付けました。

吉田和史(よしだ・かずし)プロフィール
1979年生まれ。立教大学法学部卒。
早稲田大学川口芸術学校にて劇映画・ドキュメンタリーなど映像制作の基礎を学び、在籍時に本作『茨の同盟』を制作。
2008年、同作が第11回ゆふいん文化・記録映画祭 第1回「松川賞」を受賞。現在に至る。

『茨の同盟』
監督・編集・音楽:吉田和史
撮影・録音:石河雅史、土田潤也
出演:松野行秀(ゴージャス松野)、田代純子 ほか
制作:早稲田大学川口芸術学校

neoneo坐「ゆふいん文化記録映画祭2008東京上映」:http://www.neoneoza.com/program/yufuin_2008.html

『茨の同盟』公式サイト:http://www.ibara-no-domei.info

2009年3月21日(日)にneoneo座にて再上映決定!




posted by 映芸編集部 at 17:00 | インタビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする