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2008年11月16日

『うん、何?』
宇都宮睦登(プロデューサー)インタビュー

 『白い船』(02)に続く「しまね三部作」の第二弾、錦織良成監督の新作『うん、何?』は映画の製作から公開までを地方自治体が中心となって行った100%地方映画。ヤマタノオロチ伝説の伝承地である島根県雲南市を舞台として、故郷に根を張って暮らす人たちの生と死、そして青春のきらめきを大らかな視線で切り取った作品です。
 プロデューサーの宇都宮睦登さんは、雲南市内の文化ホール職員として映画の上映や映画祭の運営に携わり、映画のプロデューサーを務めるのは今回が初めて。地方自治体が主導する映画製作は今後、メジャー、インディペンデントなどと並ぶ新たな形態として定着していくのでしょうか。地方映画の可能性と限界について聞きました。
(取材・構成:平澤竹識)

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100%地方映画『うん、何?』が出来るまで

――宇都宮さんが映画に関わるようになったきっかけは何だったんですか。

 もともとは地元の地方紙や広告代理店に勤めていたんですが、私の住んでいた木次町(現・雲南市)にチェリヴァホールという文化ホールが出来ることになって、施設を運営する第3セクターの職員として働き始めたんです。そのホールが完成した92年にちょうど「しまね映画祭」が始まりました。
 ホールの開館と映画祭の開催が同じ年だったので、それをきっかけに毎月1〜2回は映画の定期上映をするようになったんです。それから十数年は、作品を上映する立場で映画と付き合ってきました。まぁ、いつも赤字でしたけど(笑)、ホールの事業費で続けることができたんです。

――錦織監督との出会いは?

 監督が「しまね三部作」の第一弾として2002年に撮られた『白い船』という作品があるんです。その映画を「しまね映画祭」で上映した時に、私も地元の配給的な立場で関わらせてもらいました。その時に錦織監督と知り合って、なんて熱い人なんだろうと(笑)。
 これを機に、映画祭の催しとして「しまね映画塾」というワークショップを始めて、監督には塾長という形で関わってもらいました。1回目の映画塾では、塾生が書いたシナリオから1本を選び、みんなで映画にする予定だったんです。でも、錦織監督が生徒達を前にこう言ったんですよ。映画監督が100人いれば100通りの作り方があるし、シナリオの書き方も人それぞれに違う。だから、みんなが自分の思うように映画を作ったらいいと。それで結局30人ぐらいの参加者をいくつかのグループに分けて、自由に映画を作ってもらうことになったんです。出来上がった約10本の作品を観て、錦織監督はびっくりしてました。既成概念にとらわれない映画の面白さみたいなものが出てたんですね。

――その後、『うん、何?』の企画が立ち上がるまでの経緯を教えてもらえますか。

 それ以来、私は映画塾の部会長、錦織監督は塾長という立場で付き合いが続きました。3年目の映画塾は私の地元の木次町で開き、完成した12本の短編を「しまね映画祭」のクロージングイベントとしてチェリヴァホールで上映したんです。市の観光課の職員と話したら、素人の方でもこれだけのものが出来るんだから、プロの錦織監督ならもっと良い映画が出来るんじゃないかと。それで錦織監督に相談してみたところ、3,000万円あればDVかハイビジョンのカメラで、プロの俳優を2〜3人使った1時間ぐらいの作品はできるだろうと言われたんです。
 その企画を進めるために監督と市内でシナリオハンティングをしたんですが、ロケーションがいいんですよ。僕はずっと映画を上映する立場だったから、もし自分の町で映画を撮るならここは良いなと思う場所を頭にインプットしてあって、そういう所を全部見せて回ったんです。『うん、何?』の中でもキーになっている「壺神さん」にも行ったんですが、監督が「これがあれば1つストーリーが出来るよ」と。その時点で、“ヤマタノオロチ伝説をからめた青春映画”という今回のコンセプトがひらめいたみたいですね。

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――そこから35ミリの長編映画を作ろうという話になるには、大きな飛躍があると思うんですが。

 シナリオハンティングが終わった後、監督がプロットと企画書を書いて市役所の職員や市長に見せたんです。雲南市は中国の雲南省と間違えられるぐらいで(笑)、全国的な知名度も低いし、6つの町村が合併して出来た市なので一体感がない。その雲南市で1本の映画を作れば新しい自治体としての一体感も生まれるし、映画が全国で公開されれば市のPRにもなる。そんな理由から、予算の3,000万は市が準備してくれることになりました。
 ホシザキ電機というメーカーの創業者が旧・木次町の出身で、収益の一部を雲南市に指定寄付するというお話が追い風になりました。その寄付金をどう使うのか、用途を提案してほしいということだったので、市の担当者が本社までプレゼンに行って、映画に使わせてもらう承諾を得ました。その他に、県の補助金や実行委員会で集まったお金、それに東京の出資者からの資金を足して、結果的に約1億円超の予算が集まったんです。

――製作母体はどういう形で構成されていたんでしょうか。

 もともと「アトリエ・ドゥ・レーヴ」という会社がファンド形式で資金を集めて、錦織監督に何作品も撮ってもらおうという体制が出来ていたんです。それをベースにより体制を強化するため、「護縁」という監督の個人会社と「アトリエ・ドゥ・レーヴ」の製作委員会になりました。「護縁」も独自に資金を集め、そこに雲南市で集めた資金を合わせることで、製作費が賄われたわけです。

――プロジェクトが大きくなっていく中で、宇都宮さんのポジションというのはどう変わっていったんですか。

 最初は現地の“フィルムコミッション”であり“コーディネーター”という役割でした。僕は雲南市の施設の人間なので、あくまでも文化事業の一環を担う職員として映画に関わっていたんです。映画が完成した今は、その立場を離れて『うん、何?』の専従職員として別枠で市から人件費を貰っています。

――映画界の出身ではない宇都宮さんが一本の映画を完成させ、劇場公開に導くまでにはいろいろ大変なことがあったと思います。それでも続けられた原動力の源は何だったんでしょう。

 錦織監督には「錦織組」と言えるような信頼関係の出来たベテランスタッフがいます。そういうベテラン陣が監督に対して、この監督はすごいんだから自分達が支えなきゃいけないという気持ちを持っているんですね。そんなスタッフの情熱に私も巻き込まれるようなところがあったと思います。撮影中はエキストラを集めたり、ロケ地の交渉をするのが大変で、作品のクオリティがどうかというところまで頭が回りませんでしたけど(笑)。

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地方映画の限界と可能性

――今回の映画を作るに当たって何か戦略みたいなものはあったんでしょうか。

 ポストプロダクションの期間中、監督と公開形態について話し合っていた時に「究極の地方映画」にしようという意見で一致したんです。『白い船』は戦後初めて地方から興行をスタートさせて、ある程度はビジネスとしても成功した。そこから一歩進めて、『うん、何?』では最後まで地方がハンドリングして全国公開できたら面白いんじゃないかと。
 今回の作品には既存の映画会社が関わっていません。だからこそ、すごくピュアに作らなければいけないと思っていたんです。中途半端にやったら他の地方映画と一緒に埋もれてしまう。それで監督は編集の時にも寄った画はあまり使わずにワンシーン2〜3カットで収めるようにしていました。音もデジタルサラウンド5.1chですし・・・。

――たしかに、地方の大らかさみたいなものがカメラワークの鷹揚さを通じて醸し出されている印象がありますね。

 俳優のキャスティングから仕上げに至るまで横槍が入っていないので、監督が自分の思うように仕上げた映画なんですよ。そういう意味では本当にピュアに作られていると思います。

――エキストラの多さ、ロケーションの素晴らしさといった点で、地元の協力が画面に結実しているように感じました。

 映画に出てくる病院も高校も本物です。クラスの生徒のうち10人は役付きなんですが、それ以外の子はあの高校のあの教室で普段勉強している生徒なんです(笑)。

――祭りのシーンも作り込みのようには見えませんね。

 本番の祭りで実景を撮影して、ドラマ部分は再現で撮ってるんですが、再現時にも400人のエキストラが集まっています。屋台の方には謝礼を払って出てもらったんですけど、400人もいるから待ち時間にたこ焼きとか饅頭がバンバン売れる。謝礼は必要なかったんじゃないかと後で思いましたね(笑)。

――こういう形で映画を撮る場合、東京から来たプロの俳優と地元の方が同じ画面に違和感なく収まっているかどうかが重要になると思います。でも、この作品ではプロの俳優が画面から浮き立つことなく、そこに生きる人物として存在しているように感じました。

 メインキャストの6人は1ヶ月間の合宿をしながら撮影に臨んでいます。監督がまず彼らに言ったのは「雲南の子になってください」ということでした。クランクインの数日前から町を歩いて、地元の人達と話をしたりして、自然に雲南という土地に入り込んでいましたね。

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――編集の時に寄りの画をほとんど使わなかったという話がありましたが、この映画はメインだから寄るとか、脇役はフレームから外すとか、そうした意図をまったく感じさせません。だからこそ、プロの俳優と素人の方が同じ画面に違和感なく収まっているのかもしれないですね。
 ロケーションについては、地元の方しか知らないような名所が使われているのではないかと想像しました。ちょっとしたシーンでも絵になる場所が使われています。

 例えば、劇中で大木のある道が使われていますが、あの道を探す時も最初に東京の制作部から雲南市の巨木リストを送ってほしいと言われたんです。その後、スタッフがロケハンに来た時に「この巨木リストをまわりたい」と言うので理由を聞いたら、どこで撮影してもいいシーンなんだけど、できればシンボリックな大木のある場所を使いたいと言うんですね。そういうことならと、私はリストになかったその道にスタッフを連れて行きました。そうしたら、すぐに決まり(笑)。主人公の家も祝言を上げる家も同じような形で決まっています。

――ただ、この作品を「映画」として観た場合、地方を美しく描きすぎてるんじゃないかという批判もありうると思います。雲南市から予算の一部が出ているわけですし、監督の意向と市の意向がぶつかる場面もあったんじゃないですか。

 雲南市は今「ブランド化プロジェクト」を進めているんですが、監督と僕がシナリオハンティングをしている最中に、たまたまそのプロデューサーを務めている方にお会いして映画の話をしたんです。その方が市の幹部に「映画の中身に関しては作家に任せてしまいなさい」と言ってくださったらしいんですね。映画監督はアーティストなんだから、お金は出しても口を出したらダメだと。だから、市のほうから映画に対して注文を付けるということは一切ありませんでした。僕が言ったぐらいですね、ラジオ体操の場面を入れてくれとか、「ヤマタノオチチ牛乳」を出してくれとか(笑)。

――自治体から資金提供を受けていても、作家性は確保された状態で作られていたと。

 『白い船』は地元でも評判になっていましたから、監督に対する信用もありましたね。「錦織監督に任せておけば大丈夫」という感じで。

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――地方発の映画を公開するに当たってハンデに感じることはありますか。

 一般の劇場で公開すると、どうしても東宝作品やハリウッド映画と比較されるので、宣伝の量や質で太刀打ちできない。東京発の情報がないと、地元の人にも「地方のしょうもない映画か」と受け取られてしまうんです。
 『白い船』の時は地元で公開した後、少し落ち着いてから銀座のミニシアターで公開されたんですが、初日にお客さんを劇場の中へ入れずに外に行列を作らせたそうです。その様子を撮影して「東京で大ヒット」というコマーシャルを作ったら、地元でもまたドーンとお客さんが入った。島根に限らず、地方の人は東京でウケないと反応しないところがあると思います。

――映画会社が絡まずにこれだけの作品を作り、東京公開までこぎつけたのは、地方発の映画としては成功例と言えるんじゃないでしょうか。

 今回は配給会社や宣伝の方に協力してもらって東京での公開が可能になりましたけど、地方の人間が東京で映画を配給しようと思っても、現実的には難しい問題がいろいろあると思います。基本的に映画マスコミは東京にしかないじゃないですか。だから、そこに繋がりが持てないと、映画を公開しても広がっていかない。やっぱり自主配給では限界がありますよね。

――地方で映画の上映に携わり、映画祭の運営にも関わってきた宇都宮さんにとって、地方発の映画『うん、何?』のプロデューサーを務めたことはこれまでの集大成的な仕事だったと思います。今後の活動についてはどのように考えてますか。

 集大成なんて意識はないですね、まだまだやりますよ(笑)。実はもう島根を舞台にした錦織監督の次の企画が動き出しているんです。大手のプロダクションが賛同してくれているので、もしかすると公開は全国何百館という規模になる可能性もある。そこでメジャーとの闘いもあるかもしれませんが、それも「映画塾」だと割り切っています(笑)。僕も配給なんてやったことがなかったのに、今こうして真似事みたいにやっているわけですから。
 いずれは錦織監督と島根に会社を置いて、そこを拠点に映画を作り、全国に配給するということをやりたいですね。ジブリ作品の実写版じゃないけど、監督は「こんな映画で商売になるの?」と思われるぐらいピュアな作品を作り続けたいと思ってるんです。あとは島根に映画学校のような場所を作りたいですね。田植えをしたり、魚を獲ったりしながら、生きる力を持った映画人を育てたい。そんな夢もあるんです。


『うん、何?』
原案・脚本・監督:錦織良成
プロデューサー:宇都宮睦登、佐藤唯史
出演:橋爪遼、柳沢なな、宮崎美子ほか
製作:2008「うん、何?」製作委員会
制作・配給:護縁
配給協力:チェリヴァーホール、バイオタイド
(c)2008「うん、何?」製作委員会

11月29日(土)より、シアター・イメージフォーラムにてロードショー
※1回目上映後と2回目上映前、橋爪遼、柳沢なな等による初日舞台挨拶あり(予定)

公式サイト http://www.unnan-movie.com/index.php
posted by 映芸編集部 at 00:37 | インタビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする