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2011年02月03日

試写室だより『ピラニア』『カレーのにおい』『イチジクコバチ』 
劇映画から個人映画へ 
金子遊(映像作家・脚本家)

 「青春とエッチが盛り込まれていれば、何を撮ってもOK」というルールの下で、古澤健、いまおかしんじ、井土紀州ら多彩な作家が新作を発表し、1週間から10日という短い期間ながらもポレポレ東中野にて劇場公開されているのが青春Hシリーズである。2010年からはじまったこのシリーズだが、超低予算である代わりに資金の回収もしやすいらしい。また公開から間を空けずにDVDを発売するという、これまでにない映画興行のモデルを提示して話題になっている。
 たしかに低予算による弊害、スタッフのギャラの問題など、いくつかの問題点が指摘されている。しかし考えてみれば、早い内からデジタルシネマ化が進んだドキュメンタリー映画では、監督が撮影から編集までを自分でこなし、数万から数十万の自己資金で制作した映画が劇場公開されるという現象は、2000年代からはよく見かけるものである。
 商業的な劇映画において、青春Hのような現象がこれほど早く起きるとは予想しなかったが、低予算を逆手にとり、監督がそれぞれの個性をいかせるロマンポルノのような場になればいいと思う。低予算であれば、どんどん若いつくり手にもチャンスがまわってくる。デジタルビデオの時代になり、カメラの小型化と家庭用PCで映像編集が可能となった今では、劇映画だって俳優を抜けば一人で作れるものだ。青春Hシリーズは、商業映画の個人映画化のはじまりを告げているのかもしれない。

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『ピラニア』

 このシリーズに興味を持ったのは、井土紀州が監督した『ピラニア』を最初に見たからである。映画館に入ったらメジャー映画も低予算映画も、等しく1本の映画として観るのだから予算規模は関係ない。それにしても『ピラニア』は予算とは無関係に重厚なドラマに仕上がっていた。青春ものという企画の縛りがある以上、三角関係をベースにしたボーイミーツガールになるのが必然だが、そこを人物造型や設定でどのように工夫し、一品料理に仕立てるかが、料理人の腕の見せどころである。
 『ピラニア』の監督と脚本家は、少女を吃音者という設定にして前半部分のセリフを剥奪し、弁当を売りに来る青年との出会いを公園に設定した。そして、その2人に介入する役柄を失業中の男を演じる吉岡睦雄に担わせ、彼が復讐のために公園の沼にピラニアを放そうとしているという象徴を導入した。この3人の関係だけで70数分の物語を転がしている。『ピラニア』は意外な物語展開が用意されており、その中に青春のほろ苦さを味わわせるウェルメイドなドラマとなっている。

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『カレーのにおい』

 それぞれの作り手が俳優や予算を限定された状態のなかで、どのような創意工夫を見せるかを見るのが、青春Hシリーズのもう一つの楽しみ方なのだ。たとえば、山口智が監督した『カレーのにおい』は、まさに一品料理と言うにふさわしく、女と寝る前に手作りのカレーを食べないと燃え上がらないという、特異な性的不具を抱えた男の話である。このワンアイデアだけで最後まで押しとおした、お色気コメディとなっている。
 サトウトシキ監督、竹浪春花脚本の『イチジクコバチ』の三角関係は、ひと味違っている。携帯電話ひとつで売春する女子中学生(水井真希)、離婚して家に引きこもる父親(伊藤猛)、そして売春サイトを運営するカプセルホテル難民の少年(深澤友貴)である。サトウトシキがドグマ95と契約したかのような、全編を不安定に揺れる手持ちカメラで撮影しており、これが物語展開の不穏さをにおわせる。
 この映画では「イチジクコバチ」の隠喩が効いている。無花果には雄と牝があり、イチジクコバチという寄生蜂はその花に産卵して、花のなかで成長する。無花果は寄生されるわけだが、かわりに成虫になったイチジクコバチが花から花へ移動して花粉を運ぶのだ。少女売春する女子中学生のその行為が、ホテルからホテルへ渡り歩くイチジクコバチのようであり、さらに実家(父)とカプセルホテル(少年)という2つの家に寄生する姿にも重ねている。喩は二重三重にもなることによって効いてくるものだ。

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『イチジクコバチ』
 
 昨年にはじまったシリーズ1の10本に引き続き、今年はシリーズ2が企画されているらしい。監督候補には意外な大物の名前をあがっている。ひょっとしたらこのシリーズ、思わぬ台風の眼となるかもしれない。 


『ピラニア』
監督:井土紀州 脚本:椎名羅生
撮影:鍋島淳裕 出演:白井みなみ、吉岡睦雄、並木幹雄ほか
2010年/日本/76分 配給:アートポート
*近日DVD発売
(C)2010 アートポート

青春H予告第三弾


『カレーのにおい』
監督・脚本・編集:山口智
出演:江川美奈子、扇田拓也、辰巳智秋
配給:アートポート 2010年/日本/74分 
(C)2010 アートポート
*1/22(土)よりポレポレ東中野にて

『イチジクコバチ』
監督:サトウトシキ 脚本:竹浪春花
出演:水井真希、伊藤猛、深澤友貴ほか
配給:アートポート 2010年/日本/74分 
(C)2010 アートポート
*1/29(土)よりポレポレ東中野にて

青春H予告第四弾
タグ:金子遊
posted by 映芸編集部 at 11:55 | レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする