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2011年05月18日

「ニッポンコネクション」レポート 
参加監督が見たドイツの日本映画祭 
中川究矢(映像作家)

 4月27日から5月1日までドイツのフランクフルトで開催された世界最大級の日本映画の祭典「ニッポンコネクション」に初参戦して来ました。
 偶然にも今年の「ニッポンコネクション」(以下、ニチコネ)は監督作の『進化』の他、録音で参加した『ヘルドライバー』(監督/西村喜廣)、音響効果を担当した『シロメ』(監督/白石晃士)、それから園子温監督のレトロスペクティブがあるという事で、以前5年程園監督の助監督をやっていたので、3本の園子温作品(『紀子の食卓』『奇妙なサーカス』『エクステ』)を合わせて計6本の参加作品がありました。自作の『進化』はもちろんの事、自分が関わった映画にどういう反応が返って来るのか、大変楽しみでした。

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フランクフルトの街中に貼られた「ニッポンコネクション」のポスター

 今年のニチコネは日本のゴールデンウィークに当たる4月27日に開幕。当然27日に行こうと思ったのですが、飛行機チケットがバカ高い。17万以上する。『進化』は自主映画なので渡独に誰がお金を出してくれる訳でもないので(後精算でユニジャパンから助成金が出る可能性はあるけれど)、あきらめようかとも思ったのですが、21日からだったら僕の手の出る10万円のチケットがあったのでむりくり予定をキャンセルしてそれで行く事にした。
 僕が乗ったのはヘルシンキでトランジットのあるフィンランド航空。成田から計12時間くらいかけてフランクフルト空港まで。着くと映画祭のスタッフの方(日本人女性2名)が迎えに来てくれて、日本からWEB予約したマイン川沿いのユースホステルまで街を案内しながら連れて行ってもらった。着いた時、ヨーロッパはイースター祭の連休に当り、街は観光客や日光浴をする地元の人で溢れ返っていた。

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マイン川の河原で日光浴する地元の人達

 さて、ここからが本題。
 4月27日、ニッポンコネクション開幕。

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メイン会場前で『青すぎたギルティ』の平波亘監督(左)と『シロメ』の白石晃士監督(右)と

 ゲーテ大学の構内にある会場に着くと初日に僕をYHまで案内してくれたエミさんがプログラマーのペトラを紹介してくれた。どうも僕の『進化』はペトラが最初に観てセレクションしてくれたみたいである。僕の英語力ではディテールが完璧には分からなかったけれど、作品を褒めてくれて嬉しかった。
 続いて、フェスティバルディレクターのマリオンも紹介される。マリオンは11回のニッポンコネクションの歴史で唯一最初から残っているメンバーらしい。
 今年のニチコネは去年まで関わっていた創設メンバーが2人抜けたり、デジタル部門(今年からビジョンズ部門に改名)のプログラマーだったアレックス・ツァールテンも韓国へ行ってしまって、そのアレックスの後を森宗厚子氏が引き継いだりして心機一転の体制らしい。

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右が『進化』を選んでくれたプログラマーのペトラ

 18時から歓迎会。会場に案内されるや否やテレビ局のインタビューを受ける。
 19時からメイン会場であるニッポンシネマにてオープニングセレモニー。ここでも歓迎会に引き続いて日本からやって来た「我武者羅応援団」が観客と映画祭関係者に気合いを入れ、大いに盛り上がる。
 セレモニーに引き続いて、ニッポンシネマの会場ではそのまま『スイートリトルライズ』の上映が始まった。尊敬する矢崎仁司監督の作品だが、去年のゆうばりファンタで既に観ていたのと、今回はレポートを書く事もあって、なるべくビジョンズ部門の作品を観て日本映画の今後の展望を探りたいと思っていたので、手元の資料を頼りに上の階にあるニッポンビジョンズの会場までやって来る。入ると既に協賛スポンサーのCMが流れていた。会場は100席程の小さな会場だが満席で熱気むんむん。ビジョンズ部門のオープニング作品は平波亘監督の『青すぎたギルティ』。

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『青すぎたギルティ』終映直後

 この作品、インディーズで話題になっている作品として存在は知っていたが予備知識ゼロ。監督の平波氏は以前どこかの飲み会でちょっと一緒になった事があるだけでほぼ面識はないに等しい。
 いざ、作品の上映が始まると映写係が慌ててスクリーンサイズを合わせるので僕ら観客は約10秒の間に10回くらいスクリーンサイズが変わるVJミックスを観させられる事になった。そして、無事(?)スクリーンサイズが収まり上映が続くにつれ、会場では終始くすくす笑いが起こっていた。人によって笑うツボが微妙に違う映画で、90年代後半を熱く駆け抜けたかったバンド「ギルティーズ」の軌跡を、彼らが唯一残したアルバムのトラックナンバー順にネパール人のおっさんがナビゲートするという、説明しただけではとても胡散臭い映画である。
 しかし、これがとても愛すべき小品であった。シーンによって若干カメラワークやライティングにムラがあるし(後から監督に聞くと、ロケ場所によっては撮影時間がかなり限られていたらしい)、演出もかなり飛躍に富んでいるのだが、最近日本社会から聞こえなくなった、切なる青春の雄叫びのようなものが泥まみれになりながら作品の随所に溢れていて、リアリティのラインをユーモアで飛び越えたり戻って来たりする起伏がテンポよくとても楽しんで鑑賞させてもらった。
 さあ、上映が終わってQ&Aが始まる、と思ったら何やら微妙な空気。どうも司会進行係と通訳がいなくて、会場を仕切る人間がいない模様。監督の平波氏はとりあえず「ダンケ、ダンケ」と言っているが間が持たない。微妙な空気が2、3分続いた後、進行係のデニスと通訳のユキさんが登場。こういう映画祭のドタバタはゆうばりファンタで相当慣れているつもりだったけれど、ニチコネはそれに輪をかけて中々のドタバタ具合である。

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上映後のQ&Aに答える『青すぎたギルティ』監督の平波亘氏

 Q&Aではトラブルにめげる事なく快調にトークが進み、ここでも笑いが絶えない。観客からの質問もたくさん出て盛り上がった上映が終了した。上映後、監督と主演の土屋氏にご挨拶。
 一杯飲みに行きたい気分だったが会場の近くに遅くまでやっているお店がないので『シロメ』の白石氏や東京芸大作品『真夜中の羊』監督のヤング・ポール氏、平波氏と土屋氏等と会場外で少し話した後、この日は解散する事に。なんだかんだで夜の11時を回っていた。

 4月28日。ニチコネ2日目。 
 まず14時からのニッポンビジョンズのプログラム『緑子』+『Still in Cosmos』を観る。『緑子』はアートアニメーションの奇才、黒坂圭太氏が10年以上費やして完成させた新作アニメーション。作品世界とアニメーションの質がとにかくすごい。観終わって思わず口をポカンと開けてしまった。

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『緑子』

 16時から『アヒルの子』(監督/小野さやか)ニッポンビジョンズ部門。
 日本でかなり話題になっていたので観に行かなければと思いつつ、観られていなかった作品。会場の入りはまあまあ。やはり娯楽作品を扱う映画祭でのドキュメンタリー作品は若干、分が悪い。
 しかし、内容は圧巻。彼女が家族一人一人と向き合って行く姿は神々しくさえあり、さらにヤマギシ学園幼年部時代の話になると、彼女の生い立ちと日本の80年代の社会背景とがリンクして目から鱗なドキュメンタリー映画に仕上がっている。感動して泣いてしまった。
 この作品を観てドイツの観客が一体どういう感想を持ったのか感想を聞きたかったが、残念ながら僕の英語力ではそこまでの会話は出来ない。皆、神妙な顔つきで会場を後にして行った。会場外で合流した白石氏と作品を賞賛し合う。
 その後、上映中の『Live from Tokyo』(監督/ルイス・ラプキン)を観に行ったが英語が分からず途中退席し、ニッポンシネマで上映中の『冷たい熱帯魚』(監督/園子温)をしばし鑑賞する。大ホールはほぼ満席。もちろん大爆笑するような作品ではないけれど、ところどころで客席からは笑い声が起こり、観客は食い入るように観ていた。僕も改めて園さんの言葉の力に圧倒される。
 19時45分から『ミロクローゼ』(監督/石橋義正)ニッポンシネマ部門。
 奇想天外な話だがテンポがよく、細かい所に贅沢にお金が使われており、楽しんで観させてもらった。ドイツの観客もかなり楽しんでいた模様。ラスト後数分のところで、別会場で『奇妙なサーカス』の舞台挨拶があるので退席。
 22時から『奇妙なサーカス』(監督/園子温)ニッポンレトロ部門。
 ロンドンのジパングフェストのディレクター、ジャスパー氏と一緒に舞台挨拶。この会場はメイン会場から車で10分程離れたところにあり、静かな住宅街の中にある小さな映画館。とても趣のある建物で時間が遅い事もあってか観客の雰囲気も落ち着いていた。

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中央のKINOと書かれた扉の奥が映画館。隣接したBarから撮影した一枚

 舞台挨拶を終え、メイン会場に戻り平波氏と土屋氏と合流し、白石さんが泊まっている中央駅付近で飲む事に。中央駅付近は歓楽街でいかがわしい建物が軒を連ねる。白石氏を待っている間、3人で探検していたら地元の警官に止められた。「ツーリストは入っちゃダメだよ」。

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中央駅付近の歓楽街 

 白石氏と『シロメ』のプロデューサー加藤氏と合流し、平波、土屋両氏とでケバブ屋で軽く飲んだ。ケバブ屋では英語が通じなくて参った。ビアーを4つ頼んだつもりがビーン(豆)料理の皿が4つ出て来た時は笑うしかなかった。仕方ないので豆料理は皆でしっかり食べたが、思いのほか美味しかった。

 4月29日。ニチコネ3日目。
 12時から友人のカメラマン四宮秀俊氏の特集プログラム「Focus on Cinematographer Hidetoshi Shinomiya」ニッポンビジョンズ部門。その中の一本目『結婚学入門 新婚篇』(監督/佐藤央)だけ鑑賞し、記念撮影&お茶会へ。
 今年からビジョンズ部門のプログラマーになった森宗厚子氏がこの日から合流。お茶会は徒歩10分程のところにあるこちらも映画祭の会場になっている映画館のカフェが会場。ケーキが出て来てコーヒーか紅茶か何がいいかと聞かれた僕は、周りの空気を読まず1人だけビールを頼んでしまい、いつしか周りも飲み出して、お茶会が飲み会になってしまった。楽しい会合でした。

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『TUESDAY GIRL』チームと『青すぎたギルティ』の2人

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『美しい術』の撮影監督の三浦大輔さん(左)と大江崇允監督(中央)、『電人ザボーガー』の井口昇監督(右)

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ビジョンズ部門審査委員マギー・リーさん(左)とフェスティバルディレクターのマリオンさん(右)

 井口監督と一緒にお茶会を抜けて16時からプログラムを鑑賞。
 『シロメ』(監督/白石晃士)ニッポンビジョンズ部門。会場、大ウケ。この作品はアイドルグループ「ももいろクローバー」が総出演のアイドル映画でありながら、ホラーの体裁を整えたフェイクホラームービーである。とにかく、こんなにウケるものかと言うくらい、事ある毎にウケまくっていた。中でも印象的だったのが、日本的な霊媒師の格好や儀式的なものにすごく反応がよかった事だった。

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『シロメ』の会場に入る観客たち

 22時から『ヘルドラバー』(監督/西村喜廣)ニッポンシネマ部門。
 果たしてファンタスティック映画祭ではないこの映画祭で、この映画がどういったリアクションで受け止められるか興味深かったが、この映画祭の他のプログラムとは若干観客の雰囲気も違い、冒頭のスシタイフーンのアバンクレジットで笑いが起こる程、会場はHotだった。当然、作品も終始会場が大爆笑に包まれていた。
 ホームステイ先のものすごくおっとりした性格のサンドラも一緒に観てくれて、楽しんでくれたか心配だったが、終わってから感想を聞くと「すごくテンポがよくて好きだったわ」「コスチュームがみんなCUTEね」とコスチュームデザイナーらしい感想を言ってくれた。この日はsoundで関わった2作品が大盛況だったので、とても充実した気分で就寝した。

 4月30日。ニチコネ4日目。 
 この日は若手注目株の3監督の作品(吉田浩太監督『墨田区京島三丁目』今泉力哉監督『TUESDAY GIRL』坂井田俊監督『悪魔がきた』)が観られる「HOGA HOLIC Presents」もあるし、「映画一揆」もあるし、『先生を流産させる会』もある。東京芸大のポールの作品もあるし、『電人ザボーガー』の上映もある。という事でこのレポートの中心にすべく一番しっかり映画祭を観る予定の日だった。
 しかし、朝起きて携帯を見ると白石氏からメールが来ていて、皆で隣街のマインツまでサッカーを見に行くと言う。チケットは持っていないけれどなんとかなるだろう、と書いてある。ホントになんとかなるのか!? と思ったけれど、一旦サッカーに頭が向いてしまうと映画祭より断然そっちに惹かれてしまって、僕も便乗させて貰う事に。マインツはフランクフルトから電車で40分くらい。そこでマインツ対フランクフルトの試合があるという。
 電車とバスを乗り継いでマインツのスタジアムに着いたものの、当然チケットはsold out。一緒に付き添ってくれたサンドラの勧めで「チケット買います」と書いた紙を持って皆で立つも誰も話かけて来ない。40分くらいしてあきらめモードになりかけた時に、奇跡的に次々とチケットが手に入り(しかも、2枚はおじさんがタダでくれた!)、僕ら5人は全員チケットを入手。試合は地元のマインツが3−0で快勝。当然スタジアムは大熱狂。最高の体験でした。

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試合中のスタジアム

 試合後、白石さん達と幻想的で美しいマインツの街を散策して満喫。
 夜、なんとかメイン会場まで戻って来て、22時15分から『電人ザボーガー』(監督/井口昇)ニッポンシネマ部門、を鑑賞。こちらも客席から「ザボーガー」と歓声が飛び交い大盛り上がり。特撮遊びをふんだんに取り込んだ作風が現地でも盛り上がっていました。

 5月1日。映画祭5日目。ニチコネ最終日。 
 前日はしゃぎ過ぎたので自作の上映までは家でゆっくりする。16時から『進化』の上映。進行役はビジョンズ部門担当の森宗さんではなくペトラ。
 実はニッポンコネクションは日本である程度評価されている作品や映画祭関係の作品がそのまま推薦されて上映されるパターンが多く、僕のようにニチコネのWEBを観てDVD一枚ドイツに送って上映が決まったという人は少ない。そういう意味でもペトラは僕にとって恩人である。
 会場はやはり『アヒルの子』の時と同じく他のフィクションの娯楽作品に比べると若干空席があるものの、それでも6〜7割くらいは埋まっていた。
 この作品は2009年の12月24日と25日の夜に行った同世代の映画監督たち7名へのインタビューと路上パフォーマンスをミックスして作った異色ドキュメンタリー作品で、真面目な部分とユーモア満載の部分が激しく入り交じっている。果たしてその両極端な要素を1つの映画として楽しんでもらえるか非常に心配はあった。
 上映は、予想外のところでウケていたり、こちらが面白いと思っているところで思ったよりウケなかったり、途中何人か出て行ったり、エンディングで映写係の2人が爆笑していたり、と完全に十人十色な反応だった。基本的には映画制作について語っている映画なので、老夫婦や一般観客の人が途中で出て行くのも、致し方ないなあと思いながらも、やっぱり堪えた部分もあった。

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『進化coming future』       

 上映後、ペトラと一緒にQ&A。ペトラが質問しやすい空気を作ってくれたので、かなり多くの質問が出た。唯一上手く答えられなかったのが「政治的ではないのは日本の若い世代の特徴なのか?」という質問で、これにはなんと答えればよかったのか未だに考えているところがある。その時は「この作品はまず“街”を撮りたいという想いがあって、映画監督たちや街の人達のその時その瞬間の声を撮りたかった。ですから、特に政治的な意図はありません」と答えたのだが、原発の事があった今だからこそ、この質問にもっとしっかり僕なりの答えを出さなければいけないと思っている。そして、その事が次回作にも繋がって来そうだ。
 『進化』の上映後、レセプション〜授賞式へと続き、観客の投票によって決まるニッポンコネクション賞は『借りぐらしのアリエッティ』(監督/米林宏昌)が受賞。審査員3名の審査によって決まるニッポンビジョンズ賞は『堀川中立売』(監督/柴田剛)が受賞。スペシャルメンションを『海への扉』(監督/大橋礼子)が受賞しました。

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『堀川中立売』

 授賞式の後、再び僕は車に乗ってマルゼーンキノ映画館へ行き『紀子の食卓』(監督/園子温)の舞台挨拶をし、戻って来て打ち上げに合流し、結局ディナーを食べる暇もなく朝まで飲んだくれ、ふらふらのままホームステイ先に戻って帰国準備をして、日本へ帰って来ました。

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「ニッポンコネクション」の全スタッフメンバー

 さて、映画祭4日目に見逃した「HOGA HOLIC Presents」の3本や東京芸大のすべての作品、『先生を流産させる会』等は後日、鑑賞させて頂きました。
 実は、僕は79年生まれなのですが、69年生まれの人間との間に違和感は感じないのに、80年代生まれの人間との間には巨大な溝を感じていました。それがなんなのか日々探っていて、今まで上手く答えが見つけられなかったのですが、今泉力哉監督『TUESDAY GIRL』と内藤瑛亮監督の『先生を流産させる会』を観て80年代生まれの世代が抱えているものが少し見えた気がしました。それは、“無に対する不快感”のようなものです。
 その両者の作品と『堀川中立売』『青すぎたギルティ』や自作の『進化』等の“有”を信じようとする作品郡は一見、バラバラのベクトルを示しているようにも見えます。今後、この“無”に対する不快感と“有”に対する希望が指し示す先が日本映画と日本の指針になって来るように思います。
そして“その先”を自作によって報告し、他の作品によって確認する為にも、是非また美しい都市で開催される日本映画祭に参加したいと思います。

*ニッポンコネクション公式サイト http://www.nipponconnection.de/
posted by 映芸編集部 at 12:19 | レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする