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2011年09月20日

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』
大工原正樹(監督)長宗我部陽子(女優)インタビュー

 『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』(10)は、映画美学校フィクション・コース高等科のカリキュラムの一環で、講師である大工原正樹が生徒をスタッフに監督した作品である。主演は高橋洋監督『狂気の海』(06)や井土紀州監督『土竜の祭』(09)など近年は映画美学校での作品にも出演を続ける長宗我部陽子。脚本に『寝耳に水』(00)の監督でもあり、『赤猫』(04)のほか大工原正樹監督作品も多数手がけた井川耕一郎。撮影にピンク映画・一般映画と多数手がけたベテランの志賀葉一。 
 本作は今週末の9月24日より「プロジェクトDENGEKI」と題し、大工原正樹・長宗我部陽子の再び組んだ『純情No.1』、今回の特集のために製作された渡辺あい監督『電撃』など10作品と併せて上映される。この公開を機に、監督の大工原正樹さん、主演の「姉ちゃん」である長宗我部陽子さんに話をお聞きした。
(取材・構成:中山洋孝 取材:春日洋一郎 写真:岸本麻衣)

大工原正樹4.jpg映画芸術・長宗我部陽子さん2 さらに修正.JPG

左から大工原正樹、長宗我部陽子(敬称略)

――大工原さんと井川耕一郎さんが『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』について書かれた文章によりますと、脚本段階から「長宗我部陽子さんと岡部尚さんを姉弟役で主演にする」、「地方都市が舞台である」、「テーマは憎しみ」とされています。完成した作品を拝見してもこの三つは重要な要素となっていますので、できるかぎりこの三つにちなんで話をお聞きできればと思います。
 まず長宗我部さんと岡部さんをキャスティングされた理由について、すでに公式サイトなどでも書かれていましたが、改めて経緯をお聞きできたらと思います。


大工原 長宗我部さんは一緒に仕事をする前から、同じ制作会社にいた鎮西尚一さんと飲むときにしょっちゅうお会いしてたんですね。あまり喋らないけどいつも楽しそうにいる。何か聞くと、その反応が一風変わっていて面白い人だなと思って。あとで鎮西さんの『ザ・ストーカー』(97)を見たら、主役がちょっと線が細い子だったせいか、長宗我部さんのほうが目立っていて強い印象が残りました。でも映画の話なんかほとんどせずにただ飲んでるだけだった気がするね。

長宗我部 そうでしたね。もう十年以上前の話です。

大工原 何年かしてから、Vシネやテレビで仕事をしたんだよね。ヒロインの同僚の看護婦役で出番はそんなに多くはなかったんですけど、いろいろ自分からアイデアを出してきたんです。「本当の看護婦さんを観察してきたらいろんなものを身に着けてるんですよ。たとえばボールペンだって胸に差してるのはひとつじゃなくて何本も差してる」とか「あたし、このシーンではサングラスして頭からスカーフ被りたい」って言うんで、それは面白いからやってくれと。あがったものを見たら、少ない出番だけど必ずそのシーンに活気づけてるもんで「ああ、いいな」と思って。そのあとにテレビの深夜ドラマにウェイトレスの役で出てもらったんですね。

――「七瀬ふたたび」(98)ですね。

大工原 そのときは結構出番があって、とにかく動きのキレがいい、周りの役者も巻き込んで芝居がどんどん面白くなっていく印象がありましたね。でもそれっきりだったんですよ。折々に何年かぶりに会うことはあったんだけれど、その間に(長宗我部さんの出演した)映画を見ると、自分が一緒に仕事をしたときには気づかなかった魅力もあったりして、特に高橋洋さんの『狂気の海』(07)はかっこよかった。今度撮るときは長宗我部主演でやりたくて、シナリオが上がるずっと前に「出てくんないかな」って話をしたら「よくわからないけど、いいですよ」と。

――今回キャスティングをされてみていかがでしたか。

大工原 井川さんも長宗我部主演で映画を撮っているから、「彼女が主演をやるならこういうことが出来るだろう」っていうのがまずあるはずで、それは僕がやらせたいこととはまた少し違うわけですよね。だから具体的に動いてみるまでどうなるかわからなかった。特に今回はホンを貰ったのが現場に入る一週間前だったからリハーサルもほとんどできなくて。岡部君と姉弟に見えるのかっていうところも含めて、初日の一発目に動いてみるまでわからなかったんですね。
 でもファースカットから、「妙子」(長宗我部の演じる役の名前)としてこう動くんだっていう彼女の意思が伝わって来たんで「なるほど」と。そういうことはいつも探りながらなんです。

――長宗我部さんは役者としてのデビュー作がいまおか(しんじ)さんの『彗星まち』(95)です。その後もサトウトシキ監督や鎮西尚一監督など非常に個性の強い方々とお仕事をされ、映画美学校では『狂気の海』のほかにも、井川さんの『寝耳に水』(00)や井土(紀州)さんの『土竜の祭』(09)などに出演されています。そういった方々と比べて、大工原さんの作品に出演されての印象はいかがでしょうか。

長宗我部 それぞれの違いって言われると、遠い昔のこととか、あまり覚えていない。個性的な監督に呼んでもらうっていうのは、やっているときはあんまり考えなかったから、結果的に「私のフィルモグラフィーってこうなんだ」って気づく感じです。大工原さんは元々知り合ってからの時間が長いので、緊張はそんなにせず遊ばせてもらったという感じが一番あります。だから言いたいこともいろいろ言わせてもらって(笑)。

――弟役に岡部さんを選んだ経緯についてお聞かせください。

大工原 ちょっとよく覚えてないんだけど、そもそも「姉弟の話にしよう」っていうのも井川さんと話してるときに出てきたんですね。姉弟なら、長宗我部さんの弟の役に岡部君がふっと浮かんできて。岡部君は俳優でありながら映画美学校の初等科に来てて、西山洋市さんの『死なば諸共』(06)にも主演しているんですね。それが凄くいい。僕はいまだに岡部くんの代表作は『死なば諸共』だと思っているんですが、そんなこともあっていつか一緒にやってみたかった。

――井川さんと姉弟の話になった経緯について、もう少し詳しくお聞かせください。

大工原 それまで映画美学校の生徒にホンを振って『ホトホトさま』とは全然違う話をやってたんですけど、うまくいかなかったんですね。井川さんにホンをお願いして、それまでの設定を全部捨てて何かやろうとしたときに、鈴木泉三郎の戯曲で「生きている小平次」というのがあって、中川信夫の映画(『怪異談 生きてゐる小平次』 82)の原作にもなっているんですが、それを現代を舞台にやろうと。でも結局今回の話とは違うんだよな……。

――でも男女の旅に幽霊らしき何かがつきまとってくるという点では共通します。

大工原 そうそう。それは残っているんですけど、メインになっている話とか、どうしてこうなったのか全然思いだせない。井川さんから出た案で「それは面白い、やろう」って僕が言う。けど次に会うと全然違うネタを言ってきたりするんですよ、俺はその気になってるのに(笑)。でも新しく振って来たネタが面白いから、じゃあそれでやろうと……、こういうやりとりが頻繁にあるので忘れちゃう。でも、パズルの断片みたいに井川さんの中ではどこかで繋がってたんでしょうね。
(注:脚本の井川氏によると、その他に「郵便配達は二度ベルを鳴らす」、丸山健二の短編「誰もいない町」などをシナリオを書く時の参考にしたそうである)

――今回の姉役を演じられるに当たって、長宗我部さんが台本を読んだ印象はいかがでしたか?

長宗我部 台本は本当にわからなかったです(笑)。井川さんにも「わかりません」っていいましたし、撮っているときもこれはどういうことなのか、最後までわからず。岡部君と姉弟に見えるように何かしたことも特になかったです。でも大工原さんが見てるから、判断するからそれでいいって。

大工原 まず学校のカリキュラムでやってるからクランクインが決まってるんですよ。ホンを貰ってから、演出について考える時間があまりにも少なかったんですね。それに普段だったら今回の前半みたいな、ドラマがゆっくり動いていくところをどう面白く見せていくのか、井川さんとやりとりする時間があるんですけど、今回はその時間もない。だから井川さんに承諾をもらって、ちょっと現場で直したり、前日に次の日撮るシーンの差し込みを入れながら撮ったわけですよ。でも差し込みを長宗我部さんに渡すと、それがまた「わからない」っていわれて(笑)。

長宗我部 台本とは関係ない、何でセーラー服着てるシーンを撮るんだろうとか(笑) いきなり持ってこられてもよくわからないけれど、「やれ」っていうことなので。

大工原 ホンには書かれてないけれども、行間を読むとそういうシーンが浮かんでくる。

――これまで井川さんや他のかたのシナリオに現場で直しを入れたことはありますか。

大工原 井川さんのホンは、まず現場でいじらない。疑問とかやりたいことがあったら(ホンを)書いてる段階で井川さんに言います。それに他のライターとやるときみたいに何稿も重ねないし、二稿目があるくらいです。井川さんのホンはちょっといじるとすべてがおかしくなってくる。シーンの順番を入れ替えることはまず出来ないし、ちょっとセリフを直そうとしても、もともと無駄なく書かれているからあれこれやった末に結局はそこに戻ったり、とにかく考え抜いて緻密に組まれてる。『赤猫』なんかは特にそうでしたね。
 ただ、今回の『ホトホトさま』は井川さんにとっても時間がなかったと。初稿を読んだとき、中盤からは面白いんだけど、序盤は正直弱いと思った。初めて井川さんのホンでスキを感じたんです。そこを自分なりに埋めていったということなのかな。

――長宗我部さんは井川さんの台本を「わからない」と話されますが、長宗我部さんのスタンスとしては、なるべく理解してから演じたいのでしょうか。それとも「言われた通りやるしかない」というスタンスでしょうか。

長宗我部 そうですね、言われた通りに。あとは現場に行けば何とかなる、ちゃんと見ていてくれる人がいるという安心感があってのことなんですけど、台本だけで完璧に理解して臨むことはないですね。

――見ていてくれる人というのは大工原監督であったり……。

長宗我部 あとは共演してる方との息というか、リズムですよね。でも台本からはみ出ることも結構あるかな。そうでもないか。(はみ出ても)戻しますけどね。

大工原 「そんな芝居になるんだ」って驚くことは前にはあったんだけど、今回はそんななかった気がするな。

――当て書きだったからでしょうか。

大工原 そうかもしれません。あ、でも高橋洋さんに手を握られた瞬間のリアクションはハッとさせられましたね。戸惑いや嫌悪だけでなく、なにか別のものも見えてしまった気がして。

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『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』より

――今回は舞台となる木更津のロケーションが素晴らしいですね。

大工原 イン一ヶ月前に井川さんにホンを頼んでから、10日ぐらい結構な回数メールのやりとりをしつつ、こっちも時間がないから、まだプロットも出来てないうちにロケハンを始めてました。『生きてゐる小平次』を現代でやるとしたら」という頃だったのかな、ロケハンして、どんなところを見てきたか井川さんに話すんですけど、そのなかに木更津があったんですね。木更津なら井川さんも千葉だから近いというわけで、一緒に見ることにしたんです。それでシナハン兼ロケハンの日に、井川さんは僕らが見つけた木更津のいろんなところを先に回っていて、合流してからもう一度同じ場所を歩き回ったんですが、後日メールで「木更津は難しい、何もない」って言うんですね。「ロケ場所は確定してないから、どこだっていいんですよ。岐阜だっていいし、静岡だっていいし。書きやすいところで書いて下さい」って返すんだけど、「いや、木更津は難しいです」ってまた言う。木更津じゃなくていいって言うのに、「難しい、難しい」って呟き続けるわけ。でも井川さんが「難しい」って呟いてるときは、なにかひっかかりがあるんですよね……、木更津に(笑)。だから「難しい方でいいですから、書いて下さいよ」って。

――そもそも地方都市がアイデアの中にあったんですよね。

大工原 今回は単純に都内で撮るのが嫌だったんですよ。話が決まる前から、どっか合宿して田舎で撮りたかった。学校の少ない予算で合宿しながらって大変なんですけどね。

――撮影はどのくらいかかったんですか。

大工原 五日間って決められてるんです。

――舞台になるゲームセンターや旅館は井川さんがメインで見つけてきたんですか。

大工原 あらかじめ僕らが見つけてきた場所がほとんどで、井川さんが見つけたところはないはずです。ただ姉弟が映画で移動するコースは、井川さんがシナハンのときに歩いた順番に近くなってる。
 僕がある空き家を見つけたときに、「何か感じる」ものがあって拘ったんですよね。昔「文化住宅」って言われてた建物。それが、周りを畑に囲まれて掘建て小屋みたいに残っていた。井川さんに最初見せたときはあまり反応しなかったんですけど、あの家をメインで撮りたいって言ったら「姉弟がかつて住んでた家」という設定が出てきて。結局映画では2シーンだけの登場でしたが。
 あの映画館も面白かったですね。上映はしてるけど全然お客さんがいない。撮影している間もお客さんってカップルが一組入ってきたぐらい?

長宗我部 何人かいましたけどね。おじさんが途中入ってきたかな。

大工原 そこで四時間くらい撮影したけど、本当それだけですよね、あそこに人が入ってきたのは。

――前半は街そのものが主役のような印象を受けました。

大工原 ええ、でも地方に行って撮るなら、街を捉まえないと意味が無い。単独の実景はタイトルバックだけであとは全カット人物を入れ込んでいるんだけど、最初に車が走ってくるシーンから街を見せることは意識していたし、志賀(葉一)さんのカメラも人と街を同時に見せるカメラになっていますよね。

――長宗我部さん、岡部さんの他には森田亜紀さん、高橋洋さんが短い時間ですが登場し奇妙な印象を与えて退場します。特に高橋さんは一人だけ俳優ではないのに、全く引けをとらない印象を受けました。

長宗我部 高橋さん……(笑い出す)

――長宗我部さんは高橋さんと一緒にやられていかがでしたか?

長宗我部 いや、どうも何も高橋さんは独特の感性で芝居なさるので、一緒に面白がってやれました。あれ映っていましたっけ? 後ろにドタドタ……。

大工原 最終的にオンのところは切ったんだけど、驚いたのは高橋さんの動き。高橋さんが部屋を出て行くときに、立ち上がって去るんじゃなくて、四つん這いで後ろ向きに出て行ってくださいって言ったんですね。こっちはゆっくりのそのそと出て行くんだと思っていたら、ものすごい勢いでドタドタドターっていくから、みんな唖然と(笑) 

――森田亜紀さん、高橋洋さんのお二人が演じられる人物は、この世のものではない存在感があります。

大工原 それは意識しました。あの二人がいなかったら、兄弟以外誰も出て来ない映画になるんですよね。兄弟のほかに二人だけ出てくる登場人物だから、普通の人のようには現れないんじゃないかなってのは、井川さんのホンを読んだときに感じた事です。
 森田亜紀さんとそういった話は特にしなかったんですけど、高橋さんには人間ではない、犬ってことにしましょうと。「犬のような人でやってもらえませんか」とイン前日くらいに話したので、高橋さんが長宗我部さんに「じゃあ俺の歯を見てくれよ」ってやる口の開け方も、犬としてやってるんじゃないかな。

長宗我部 知らなかった。初耳です。聞いてたかもしれないけど忘れてた。あれは犬だったんですね、ザザザザザって。

大工原 でも犬は後ろ向きには走らないからね。

長宗我部 本当に人間じゃないっていうか、怖かったんですよ! ザザザザザっていったのが。

大工原 ただ、見た人がどう判断するかですよね。明らかに人間ではないというふうにも見せたくない。

――高橋洋さんは主題歌の作詞も担当されていますが、この歌はどのような流れでつくられたのでしょうか。

大工原 高橋さんと一緒に編集ラッシュを見て感想とか聞いてたんですけど、高橋さんが歌があると良いんじゃないかって言うんですね。じゃあ、主題歌を作りましょうと。その場で高橋さんに作詞をお願いしてみたら「いろんなものを書いてきたけど、歌の作詞は初めてです」と(笑)。最初は梶芽衣子みたいな歌が良いかと思ったけど、梶芽衣子さんと長宗我部さんの声質は違うよなあって。

――長宗我部さんが歌うということはもう……。

大工原 それはもう映画の主題歌なんだから、主役が歌うに決まってます。

長宗我部 知らぬ間に……。

大工原 そういえば長宗我部の歌声って聞いたこと無いから、これから聞きに行こうって、高円寺のカラオケに呼び出したんですよ。夜中だったけど来てくれたんだよね。

長宗我部 そうですねえ。行きました。

大工原 あんまり詳しい話はせずにいろいろ歌ってもらって。

長宗我部 いきなりオーディションかテストが始まって。

大工原 翌日高橋さんから「ああいう感じの歌声なら緑魔子の『やさしいにっぽん人』がある」ってメールが来たんですね。『やさしいにっぽん人』(70)は東陽一さんの映画も見たことなかったけど、聴いてみたら凄く良い。それでこのイメージでいこうと、作曲の中川(晋也)さんに聞いてもらって作ったんですね。
 中川さんはこの映画のスタッフの一人から、仕事場が一緒のミュージシャンということで紹介されて。これまで作った曲を聴かしてもらったら、曲自体も良かったけど、映画の音楽もいけそうな人だったんですよ。さらに編集ラッシュのDVDを渡したら、とても丁寧で的確な映画の感想をメールでいただいて、この人なら、と思い作曲をお願いしました。

長宗我部 リハーサルで美学校のアフレコルームに行って、何回か音を聞きながら歌ってたんですね。音もちゃんと入ってなかったですし、歌詞もちゃんと入ってない状態で。ちょっと様子見て録って、本番は別の日に録る予定だったんですけど、結局リハーサルのときの歌が採用されました。歌なんか歌ったことなかったから本当にあわせる練習をするだけのつもりだったんですけど、そのラフさが良かったんですかね?

大工原 あんまり朗々とうたう歌でもないしね。このまんま録っちゃおうかという流れに。

長宗我部 でも細かい注文が結構ありましたよね。

大工原 節回しや雰囲気とかはね。

長宗我部 私結局(「やさしいにっぽん人」を)聞いてないんですよ。You Tubeにあるのを送ってもらったけど、結局今も聞いてない。

大工原 聞いてないの!? 聞いてんのかと思った。

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『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』より

――時々挟まれる白い線が章立てということでしょうか。章立てだとすれば最終的に20本に増えますが、一章2〜3分という構成になりますよね。

大工原 まず井川さんが前後のつながりを考えてシーンを始めたり終わらせたりするのではなく、ぶつ切りにしてそのまま投げ出す感じのホンにしたいって言ったのね。上がった映画はそんなにぶつ切り感はなくなりましたが。
 ホンには数字で1・2・3と章立てがふってあったから、編集のときにまずシナリオどおりに数字を入れたんですけど、字幕が出るたびに集中が途切れるんですね。ローマ数字にしたり、漢数字にしたりしたんだけど、どれもしっくりこない。黒味も嫌だったんでね。思い切ってただの線が増えていくだけにしようと、編集ソフトで線を引っ張ったけど味気ない。仕方ないから筆ペンで書いた線をスキャンして入れてもらったら、何となくしっくりきた。でも編集を何回もやり直してるうちに何章かとばしているから、順番に数えてくと一挙に2〜3本増えてるかもしれない。

――あの線は闇の中から一筋光が射しているような、細い隙間から外を覗き見ているような感じがします。まるで押し入れや窓の隙間から外を覗き見ている岡部尚さんの仕草や、瓶の中から虫が覗き見るような感じは、大工原さんの作品に一貫する「覗き見る」というテーマを想起させます。

大工原 そうですか?それはもうはっきり言って井川さんのテーマだよね。もともと井川さんのもっているものだから、それはもう本当に僕じゃない。
 でもいま仰ったような井川さんらしいテーマと合致したから、偶然かもしれないけどあの線がしっくりきたんでしょうね。けど「覗き見る」テーマは、『ホトホトさま』を撮ってるとき僕はまったく意識してなかった。

――この姉弟はどこか恋人同士ではあり得ない、血の繋がった間柄の雰囲気が随所に感じられます。でも同時に近親相姦的な、恋人に近い関係でもある。宿で一泊するあいだ、姉弟の関係を恋人同士とは異なる、どこかより気持ち悪い、もしくはより深い愛として印象づけるために「手」の演出を意識されたのではないかと思います。長宗我部さんは「あいつ」のトラウマから男性に手を握られることを恐れていますが、弟である岡部さんには手を差し出します。その後、自らの帯をほどいて差し出す仕種は非常にエロチックです。

大工原 そこはいま仰ったことを僕もホンで読んで感じたので、そのように意識しては撮ったつもりです。

――長宗我部さんにとってあのシーンはかなりデリケートなお芝居を要求されるのではないかと思いますが、脚本を読んでいかがでしたか。

長宗我部 そうですねえ。あまり私もどうしようとか、わかんなかったんですよ、本当に。姉弟の中でそういう設定で書いてる文はあったんだけど、どうしたらいいのかわかんなかったんで……。どうしてましたっけ?

大工原 エロチックさはあのシーンを通して、もしくは映画を通して見えてくればいいもので、特に演技でエロチックにする必要は無いところですよね。弟との絆を一晩の旅館のシーンで変化させることを芝居のレベルで意識してやるのではなく何てことない行為を重ねてるうちに、とてもエロチックに見えてくる。それはもともとホンにあるものなんですね。長宗我部さんはたぶんそんなに意識して演じなかったでしょう。俺もそう思って撮ってましたから。変に意識して演じたり、見せたりすると、やりすぎてしまう。

――宿の外がだんだんと赤くなる演出は、照明を炊いただけでしょうか。セットみたいに急になって面白かったのですが。

大工原 障子を赤くするのは志賀さんのアイデアですね。それなら外の明かりが赤くなるにつれて、徐々に揺らめきが出てくるようにしたかったんです。志賀さんがでっかいタライを持ってきて外の庭に置いて、斜めににガラスか鏡を入れて、そこに水を垂らして揺らめきを出そうと。わりとそういう微妙な調整が必要なときだったんですけど、ちょうど外が暴風雨で(笑)。こっちはシーンとした室内で撮ってるから、そんな大変なことになってるとも知らずに、「ちょっと早過ぎ」とか「水が多すぎ」とか注文つけてて、ふっと外を見たら照明部がみんなびしょ濡れでガタガタ震えてた(笑)。 

――二人に付きまとう「あいつ」の外見は強烈です。びっこをひきながら後姿しか見せない。向うから遠ざかっているようなのに付きまとってくる姿は、より逃れ難い不気味さが漂っています。

大工原 (「あいつ」は)姿を現してるところもあるんで、役者さんにやってもらいたかったんですけど。(スタッフの一人が演じたことについて)予算が無かったこともあるし、結局顔は見せないと決めてたんで、そういう役を役者さんにやってもらうのも悪い気がして、諦めましたね。けれど、案の定というか、現場で一番時間が掛かったのは「あいつ」でした。
 ホンにはどういう見た目なのか、あんまり具体的には書いてなかったんで、あの見せ方を決めたのは僕ですね。でも遠ざかってくのにつきまとってくる感じは、言われて初めて「そっかあ」と思ったんですよ。井川さんのホンは撮ってしばらくして見て「そうだったのか」と気づくところは多いですね。こっちは勘で撮ってるだけで。でもそんなに間違ってはいなかったと思うんですが。

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『純情No.1』より

――長宗我部さんにとって今回の撮影で特に印象に残ってらっしゃる場面などはありますか。

長宗我部 どのシーンを特に力を入れてやったとか、そういうのはないんですよね。ただホンがとにかくわからなくて。最初の編集を見たときは「どうするつもりなんだろう」ってクエスチョンが、心配な印象があったんで、最後の完成版を見るまで、一本の筋が通ったような作品になると思ってなかった。

大工原 信用されてないな(笑)

長宗我部 相変わらず旨い人だなあと感心して……。もっと散漫っていうか、ポイントが無い話だと思ってたんですけど、出来た作品を見たときには焦点がちゃんと合ったので、なるほどこういう話だったんですねっていう。

――今回同時に上映されます『純情No.1』は現場で演じていていかがでしたか?

長宗我部 ははは、まったくわかんないんですね(笑)。わかんないんですよ、それこそ、どうとでもしてくださいって感じで。

大工原 『純情』は映画美学校の生徒が撮影・照明・録音の練習をするための技術実習という授業があって、撮影・照明の講師の山田達也さんと録音の講師の臼井勝さんが担当する実習なんです。二人の指導のもとに1日で短編を撮りながら技術の訓練をするわけですね。でも監督がいないと映画にならないから僕が呼ばれたわけ。で、あわよくば『ホトホトさま』と一緒に上映できる物をつくりたいというのがあったんで、長宗我部さんにまた声をかけて。具体的なプランが無かったんで「今度は尺が10分で一日で撮るやつがあるんだけど、何やりたい?」って聞いたんです。そしたら「いや別に無いですけど」ってものすごく素っ気ない答えが返って来る。けど、その後呑み屋に行って話してるうちにだんだん「コメディみたいなのをやりたい」「谷啓みたいな役をやりたい」って。

長宗我部 なんで谷啓やりたかったのか、わからないんですね。谷啓さんが亡くなって間もなかったのかな?

大工原 いや、谷啓さんはまだ亡くなってなかったんじゃない?(注:谷啓氏が亡くなったのは10年9月)とにかく「じゃあわかった、コメディをやろう」と。ホンは実習を受ける生徒に振ろうと思ったんだけど、他のシナリオやビデオ課題なんかの宿題がたくさん出ているから、みんな忙しくて書けない。仕方なく自分で、3時間くらいでもう行き当りバッタリのホンを書いて。
 長宗我部さんのやった役はちょっと頭のおかしな女に見えるでしょ。僕もそんなつもりで書いてたんです。そうしたら終盤のトイレのシーンで、講師役の北山雅康くんから「表で待ってろ」って怒鳴られた時に、長宗我部さんがコクンって頷くんですよ。「あれ? 何で頷いてるんだろ」って思いながら「なんか可愛いから良いや」ってそのままにして。それで最初の編集が終わって通してみたら、この女が講師に恋してるように見える。驚いて助監督やった生徒に話したら「大工原さん以外みんな気づいてました」って。

長宗我部 えー、そうなんですか! ホンもらったとき「ちょっとコメディとしてキツいなあ」って……。頭のおかしな、ストーカーチックな女の話だけど、自分の中の思い込みでは「恋をしてる」という設定だったんですけど。ただの頭のおかしい女だったんですか。

大工原 そのつもりでした。

長宗我部 そうかあ、そこは行き違いがあったんですね。

大工原 いや、自分で書いたホンだけに恐ろしい無意識が出てしまっているから、僕だけがそれを認めたくなかったということなのかもしれない。そもそもナンセンスのつもりだったからさ。しかしなあ、女が講師に恋していたとなると、筋が通ってもうナンセンスではなくなってしまう。やはり僕には万田邦敏さんのような真のナンセンスコメディは撮れないのか、と落ち込みました。だから長宗我部に映画が救われたのかも。だって、そう思って演じてたんでしょう。

長宗我部 そう思ってたんですよ。傍から見たらおかしい女だって映ればいいけど、自覚なくきっと本気で好きになってる女なんだって。好きだっていう面のほうが強すぎたんですね。

大工原 いやいや、あれで良いと思うよ。そっちが正解です。

――長宗我部さんは今後も大工原監督と組まれたいと思いますか?

長宗我部 大工原さんは私のなかで最も意外な作品が最後に出来上がる(笑)。普段の佇まいと別な、私の思ってる大工原さんの印象と違うものが出来上がってくる。ホンを読んでて「なんでこうなってるの?」ってことは『七瀬』の頃も少しあったんですけど、今回『ホトホトさま』と『純情』で組んで、よりはっきりしました。

大工原 『ホトホトさま』と全く同時期に、映画美学校のもう1本のコラボ作品で井土紀州さんの『土竜の祭』にもを出てたんだよね。井土さんの映画のほうが、たぶん役は掴みやすかったよね。

長宗我部 そうですね、台本のタイプが違う。(『土竜の祭』は)パターンの設定でしたからね。

――大工原さんは長宗我部さんから「わからない」と言われたとき、どうされたのでしょうか。

大工原 僕はとっても口が下手だから、うまく説明ができないんですね。だから「そこはちゃんと見てるから大丈夫」「見てダメだったら言うから」と言うしかない。「わからない」となるとまったく動けなくなってしまう役者もいるし、初めての人だったらもうちょっと一生懸命説明すると思うんだけれど、長宗我部さんは昔から知ってるし、わからないなりに動いてくれるからちょっと雑に返しているかもしれない。でもどう言えば役者さんに伝わるか、誰が来ても当てはまるノウハウってないんですね。だからその都度相手を知りながらやってくしかない。僕なんかも演出っていまだによくわかんないから、もう本当に目の前の芝居を見て、感じたことを伝えて、一緒に作ってく感じですかね。



『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』
監督:大工原正樹
脚本:井川耕一郎  撮影・照明:志賀葉一
録音・整音アドバイザー:臼井勝 
編集:渡辺あい 大工原正樹 音楽:中川晋介
出演:長宗我部陽子 岡部尚 森田亜紀 高橋洋 光田力哉
2010年/HDV/49分

公式サイト:http://hotohotosama.web.fc2.com/index.html
ブログ:http://d.hatena.ne.jp/projectdengeki/

【プロフィール】

大工原正樹(だいくはら・まさき)
1962年生まれ。大学在学中に中村幻児の雄プロに所属。廣木隆一、石川均、鎮西尚一らの助監督を務める。その後、製作会社フィルムキッズに所属し、89年に映画『六本木隷嬢クラブ』でデビュー。
『もう・ぎりぎり』(92)『未亡人誘惑下宿』(95)『のぞき屋稼業 恥辱の盗撮』(96)『風俗の穴場』(97)などのVシネマを監督する。その他にTV作品として『真・女神転生 デビルサマナー』(00)『七瀬ふたたび』(00)『ミニチカ』(06)などがある。2007年には映画『赤猫』(04)がデビュー作以来となる劇場公開をされ、話題を呼んだ。

長宗我部陽子(ちょうそがべ・ようこ)
1973年岩手県出身。大学在学中に『彗星まち』(95/今岡信治監督)で映画デビュー。その後、多くの映画、ドラマ、Vシネ、CMに出演。主な出演作に、『迷い猫』(98/サトウトシキ監督)、『リング2』(99/中田秀夫監督)、『修羅雪姫』(01/佐藤信介監督)、『東京マリーゴールド』(01/市川準監督)、『この世の外へ〜クラブ進駐軍〜』(04/阪本順治監督)、『恐怖』(09/高橋洋監督)、『行旅死亡人』(09/井土紀州監督)など。



【公開情報】
「プロジェクトDENGEKI」と題して、『姉ちゃん〜』と併せて大工原正樹・長宗我部陽子が再度組んだ『純情No.1』、今回の特集のために製作された渡辺あい監督『電撃』ほか10作品を日替わり上映します。

9月24日〜10月8日 (9月28日のみ休映)
連日21:10〜

会場:オーディトリウム渋谷

WEB:
http://d.hatena.ne.jp/projectdengeki/
Twitter:
https://twitter.com/#!/hotohoto3ma
posted by 映芸編集部 at 03:49 | インタビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする