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2012年01月16日

「デジタル化による日本における映画文化のミライについて」PART3 
トーク「映画の多様性を守ろう!」 
田井肇(大分・シネマ5)、瀬々敬久(映画監督)、村上淳(俳優)、古賀太(日大芸術学部教授)

 3回にわたって掲載してきたシンポジウムの採録もこれで最終回。映画館経営者、監督、俳優、研究者と立場の異なる四者が登壇したこのトークでは、会場に集まった配給業者や文化庁の担当者などからも発言があり、各々の意見が積極的に交換された。映画館の、あるいは映画のデジタル化という「革命」が、それぞれの領域にどんな変化をもたらそうとしているのか。これは近い将来、映画観客自身が直面しなければいけない問題でもある。
(取材・構成:小久保卓馬 平澤竹識 協力:シネレボ!)

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左から古賀、瀬々、田井、村上の各氏

土肥 先ほどの田井さんのお話で、今の日本の状況がある程度お分かりいただけたと思います。その後の工藤さんの報告で、だけれども打つ手はないわけではない、ということもお分かりいただけたんじゃないかと思います。
 二部としまして、では日本は何をしたらいいのか、われわれが今いろんな映画を見られるという幸せですね。その多様性を守っていくためには、今何かしないといけないと思うんですけれども、それについてこれから話をしていただきたいと思います。司会進行は、日大芸術学部映画学科教授の古賀太さんです。それから『ヘヴンズ ストーリー』(10)、『アントキノイノチ』(11)の瀬々監督、先ほどの田井さんもお願いします。あと、今日は映画俳優の村上淳さんにもいらしていただきましたので、登壇していただきます。じゃあ、古賀さん、お願いします。

古賀 今日は最初に日本の大分の例があって、ヨーロッパの解決方法というのが出ました。そして、ここに瀬々監督、俳優の村上淳さん、会場には利重剛監督もいらっしゃいますし、文化庁の佐伯(知紀)さんもいらっしゃいますし、いろんな方がいらしてますので、みなさん当てますので用意しておいてください(会場笑)。
 まず、簡単に歴史的な話を申しますと、今回のデジタル革命というのは映画にとって「第三の革命」ではないかと思います。まず、サイレントからトーキーになった1927年、『ジャズ・シンガー』からトーキーが世界中に広まったという革命があります。それから、映画は白黒からカラーになりました。これは長い年月を経てますので、いつと言うのは難しいんですけども、こういう二つの革命が今までにあったと思います。
 そして今回「第三の革命」というのは、フィルムが失くなるということです。フィルムというのはエジソンが発明したときから、四つ穴の35ミリというのが今に至るまで続いています。100年以上続いてきたわけなんですが、これが失くなってしまうということは、今回の革命がおそらく最も大きな革命になるんじゃないかと思います。もちろん先ほどお話にあったように、制作現場と言いますか、編集では90年代からデジタルが使われてますし、撮影でもどんどんデジタルが主流になってきています。そして今、ようやく一番川下にある映画館のデジタル化というのが問題になっているということです。
 この映画始まって以来の革命の特異な点は「見えない」ということです。つまり、映画館でデジタル上映を見ても、35ミリ上映を見ても、その違いが一般のお客さんには分からない。そういう一般の観客には見えない革命であるということが、今回の非常に特殊な点だと思います。
 ただ、先ほど田井さんが「地方ではこれから映画が掛けられなくなってしまう」ということを話されましたけれども、地方でアート系の映画が掛けられなくなってしまうという状況は今に始まったわけではありません。これは外国映画の例ですけども、2007年に403本の外国映画が上映されて、2010年は304本、わずか3年の間に100本も減っています。この減った分は主にヨーロッパ映画、アジア映画なんですけれども、つまりデジタル化以前にアート系映画はもう瀕死の状況にあると、さらに今回のデジタル化で、これが完全に死んでしまうかもしれないという状況にある、ということを認識していただきたいと思います。
 じゃあ、日本のデジタル化はどのくらい進んでるかといいますと、約800スクリーンなんですね。全体が3400スクリーン強ですから、40%を超えています。もちろん大半がシネコンですけれども、もうここまで進んでいるわけです。それから日本はシネコンが80%あります。ヨーロッパのように独立系の映画館が64%というのんきな状況じゃありませんので、その違いは踏まえておいていただきたいと思います。
 実際、映画をお作りになっている瀬々監督もいらしていますので、作り手の側から見た映画館のデジタル化、あるいはアート系映画館の未来とはどういうものなのでしょうか、ということをお聞きしたいと思います。

瀬々 デジタル化問題もやっと分かり始めたばかりで、映画館の未来という大きな問題を答える用意も自分自身にはまだないので、実作の現場に携わっている身としてデジタル化について感じていることをお話します。今『アントキノイノチ』が全国230スクリーンで公開されているんですが、その半分がDCP(デジタル・シネマ・パッケージ)で、残り半分がフィルムです。現状はそういう感じになってます。
 それから、この映画はREDというデジタルカメラで撮りました。ソダーバーグがチェ・ゲバラの映画(『チェ 28歳の革命』『チェ 36歳別れの手紙』[08])で使って有名になったカメラです。これは解像度が4Kありまして、それ以前は2Kのカメラしかなかったので、容量上がったことですごく重宝されています。それで今回は、フィルムで初号を上げた後にDCP初号というのがありました。もちろんフィルムのときにタイミングとか色補正とかいろいろやって、それと同じデータをDCPにも反映させたんですが、初号のときに愕然としました。例えばカットバックしたときに、フィルムの場合は若干色味が違っていても融通が利くというか、ふたつのカットの色味が合ってるように見えるんですね。でも、DCPの場合は少しでも色味が違うと、本来の狙いと全く違う形で上映されてしまう。そういう厳密性があるので、細部にわたっていろいろ調整しました。
 あと決定的な違いは、フィルムは空気感みたいなものが非常に伝わるんですけど、DCPの場合はそういうものが削ぎ落とされてしまうというか、ぺターっとくっついたような画面になってしまうんですね。フィルムにはいい意味で濁りがあるんですね。現像所の人が言うには、「油絵と油絵を印刷したものくらいの差がある」とおっしゃっていましたが、僕たちとしては、油絵と水彩画くらい違うのではないかという感覚がありました。実際、フィルムで上がったものとDCPで上がったものではそれぐらい感覚的に違った。だから、DCPになっていいこともあるんでしょうけど、やっぱりフィルムの良さは絶対あるわけで、デジタルに一元化されていくということは非常に危険だという実感を持ちました。
 もうひとつ上映に関してなんですけど、今年の山形ドキュメンタリー映画祭で審査員をやったんです。フォーラム山形という劇場で上映されたんですが、シネコンなのでDCPに対応したDLP上映なんですね。そこでアジアのドキュメンタリーをたくさん流したんですけど、映写技師としては「全部ブルーレイに焼いてくれ」と、「規格を統一したい」と言うわけです。バラバラの素材に対して、別の機材を咬まして上映設備を変える余裕がないから、今回は全部ブルーレイにしようと。これは映写サイドの現場の判断としては正しいと思うんです。ただ、アジアの地方にいる作り手の多くは未だSDで撮ってるんですね、HD以前の。でも、ブルーレイはHD仕様なんで、アップコンバートしなくちゃいけない。そうすると逆に画質が落ちてしまうんです。
 もうひとつ致命的な問題は、DLPは非常に明るいんですね。だから、作り手側にはかわいそうなくらい暗部が浮き上がってしまう。こないだ田井さんのシネマ5で『ヘヴンズ ストーリー』を上映したときも同じような現象になったんですけど、DLPでブルーレイ素材を上映すると、明るすぎてダメなんですよ。昔の上映のシステムだと、リモコンを操作して暗くしたり、コントラストをきつくしたりできたんで、それをやってくれと山形でも頼んでみたんです。でも、「他の映写機も連動してるから設定は変えられない」と。じゃあ、暗くしよう、ライトをどんどん落としていこうって言うと、「ごめん、これ以上落とすと壊れちゃう」と。それくらいDLPは画一化されたシステムなんですね。いろいろいい面もあるんでしょうけど、最新の機材を揃えられない若い作り手たちや周辺の国の映画を排除してしまったりとか、ちゃんとした上映ができなくなってしまうという危険がすごくあるシステムだというのは、僕はそのときすごく感じました。
 だから、言いたいのは「多様性」というのが重要であって、それをデジタルに一元化してしまうと、こぼれ落ちていくものいっぱい出てくるってことですよね。フィルムが失くなることに関しても非常に問題があるんでしょうけど、そういうことも含めて多様性をどうやって確保していけるかというのが一番重要だと思います。

古賀 先ほどの工藤さんの報告でも、デジタルを導入したことで、ものすごい種類の映画を上映できるようになったという例が出ましたけれども、今後日本では逆の方向に行きかねないわけですね。ひとつの映画館で年間160本、150本上映されてるというのは、朝から晩まで同じ映画を掛けるのではなく、客層に合わせてパズルのように毎日プログラムを組んでおられる。おそらく田井さんのところでも土肥さんのところでも、そういう工夫をされて160本、170本の多様性というものを生み出しておられると思います。しかし、一本一本にVPFが7万円とか10万円かかってくると、それがほぼ不可能になると考えてよろしいんですよね?

田井 完全に不可能でしょう。まあ、これは配給会社の方がどう答えるかということになりますが、おそらくどの配給会社にも、5万円貰うためにどこかに9万円払うなんていう選択をされる方はいらっしゃらないでしょう。

古賀 それについて配給会社の方でどなたか発言していただけますか。急に会場に回しますが、ムヴィオラの武井(みゆき)さんはどのようにこの事態を捉えられてるのか、お話いただけますか。

武井 今、田井さんがおっしゃいましたけども、うちのような規模でVPFサービスのお金を払っていくと逆に経費が膨らむという試算が出ているので、今の状況をそのまま受け入れると、おそらく会社が赤字になって倒産するという風になっていくんじゃないかなと思います。ですので、現状をそのまま受け入れるのではなくて、小さな配給会社が小さな映画を配給していける道を探していければと思っているところです。

田井 武井さんのところは『ヘヴンズ ストーリー』の配給会社なので『ヘヴンズ ストーリー』の興収がどの劇場で20万円を切ったのかというのをご存知だと思うんですけども(会場笑)。

古賀 今日はその『ヘヴンズ ストーリー』にもお出になっている俳優の村上淳さんにもおいでいただいてますので・・・。

村上 しかも、さっき田井さんが出した「キネマ旬報」と「映画芸術」の表、僕が出演した作品はほとんどオレンジか赤だったんですけど(笑)。だからといって、自分の雇用、仕事の問題でここに立ってると思われるのは嫌なんですけど、単純な話ですよね。地方に映画館が失くなってしまうことの味気なさ、日本がそうなってしまっていいのか、ということを国レベルで考えないといけないんだと思います。僕はデジタルの映画も3Dの映画も見に行きますが、35ミリのプリントが失くなってしまうという転換期にどうするのか、そのスキームに乗れない単館系は廃業になってしまうということではダメですよね。じゃあ、どうするかということを考えなきゃいけない。
 僕は今日この場にどういう方がいて、どういう意見が出るのかということを見にきたし、確認しにきたし、これは一映画ファンとしてやってることです。ただ、当事者の方、単館系の劇場を経営されてる方だけが発言するのは逆にフェアではないと思ったんで、この若輩な俳優が立つのは申し訳ないとは思ったんですが、ここに立ちました。だから、みなさんも声を上げてください。分からないこともあると思うんですよ、だから僕もここに立っているし、みなさんのお話を聞かせてもらいたいと思います。

古賀 ちなみに今、VPFを扱っているサービサーが3社あるんですけれども、3社のうち2社の契約条件として、ハリウッド準拠のDCIのデジタル上映設備を入れる代わりに、35ミリ映写機を撤去するという項目があります。ですからVPF導入の問題には、今後35ミリの上映ができなくなるということも含まれる。つまり、VPFのシステムにそのまま乗ってしまうと、35ミリの映写機がなくなってしまうわけですから、35ミリの名作と言いますか、配給会社や制作会社が持っているプリントは、今後2年のうちに映画館では掛からなくなる恐れがあるということです。
 35ミリのデジタル化には200万くらいの費用がかかるそうですけども、どこかが資金を出してDCPという形にすれば、どこでも上映できるようにはなります。けれども、有名な監督の作品だけではなく、いろんな映画にそれができるのかというと、きっと難しいでしょう。しかし、それをしない限り、今まで日本に輸入されてきた、あるいは制作されてきた映画は、フィルムセンター以外の劇場ではどこにも掛からなくなってしまう、そういう状況がほんの1〜2年先まで来ているということです。

田井 うちは当面、35ミリ映写機を捨てる気はありません。でも、映写室の構造上の問題なんかもあって、デジタル映写機を導入して35ミリ映写機を撤去してしまうという映画館もあります。まあ、いずれにしても、35ミリのプリントが供給されることもなしに、ただ映写機だけを持っていても35ミリを持っていることにはならない。だから、それも含めて35ミリ問題を考えていくことにはなるでしょう。ただ、それは私たちが決めることではなくて、むしろ映画をご覧になる方々がお考えになることだと思います。

古賀 じゃあ、どうしたらいいのか、という話をしないといけないので、どなたか意見のある方はぜひ。はい、どうぞ、大阪の景山(理)さんです。

景山 大阪でシネ・ヌーヴォという映画館をやってますが、私のところは35ミリとデジタル両方残すつもりでいます。今、宝塚のほうでシネ・ピピアという映画館もやってますが、どちらもそういう形になるかと思います。
 デジタル化の話に関して一つだけ言っておきたいのは、作品保全という点ではフィルムが非常に有効なんですよね。これがVPFを導入したときにどうなるか。データが消えるという問題があるわけです。そうすると、もうアーカイブなんか成り立たない。35ミリの映写機は制作が中止になるんでしょうけど、35ミリのプリントはまだまだ作りますよね。そうすると、フィルムを残す運動をするしかないんじゃないかと思うんです。ですから、単館系の映画館はフィルムがある限り、35ミリでやればいいんですよ。実際に今、デジタル素材をそのまま上映するよりも、プリントを焼いたほうが安くなるという話もあります。作品保全って意味でいくと、今作られているものが5年後になくなる可能性もあるわけです。デジタルは物じゃなくて、素材がデータになるってことですから。その点、フィルムは100年残ることが証明されてますから、作品保存という点では一番有効なんです。だから、独立系の映画館がシネコンとは別路線でネットワークを作っていって、そういう土俵に乗らないという形を模索するべきじゃないですか。まあ、VPFに乗る映画も当然あるんで、乗る映画は乗ればいいし、乗らない映画をもうひとつ別に作っていくっていう形もあるんじゃないですかね。そうやって作品を残すっていう形があると思うんですけど、いかがでしょうか。

田井 シネ・ヌーヴォがあるのは大阪で、かなり大都市なので、そういう方向性はあるかもしれませんが、地方都市は状況が違います。人口10万人とか、そういうところはですね、単館系の映画が元々やりずらい。だから、メジャーの『アントキノイノチ』とか「ドラえもん」とかもやってるんですが、そういう映画館が地方都市に残っていることにはやっぱり意義があるわけですよ。そういう映画館が存続していくためには、35ミリの作品だけでプログラムを構成するのは難しい。つまり、ヒットする映画は素材がデジタルになることが多いわけじゃないですか、メジャー系の作品ですから。35ミリの映画だけを上映して映画館が成り立つのはたぶん100万都市以上じゃないですか。

古賀 その他にご意見がある方いらっしゃいますでしょうか? 

吉原 エスパース・サロウという配給会社の吉原(美幸)と言います。うちの会社はほとんどがプリント2〜3本で回している状況で、デジタル設備のある劇場ではブルーレイを使うという形で、全国の単館系の劇場さんでやらせていただいています。実は、来年のゴールデンウィークにシネコン中心のブッキングをしようとしている真っ最中なんですけど、今のお話を聞いていて気になったことがありました。先ほどお話があったように、VPFのサービサーは3社ありまして、単館系の劇場さんと多く契約を結んでいるデジタルシネマ倶楽部さんと、それ以外のSONYテクノサポート、JDCS(ジャパンデジタルシネマサポート)の契約には違いがあります。VPFを契約する代わりに35ミリ映写機を撤去してくださいという契約条件は、JDCSさんとSONYさんにはまだ入っているはずですが、デジタルシネマ倶楽部さんには入っていないと聞いたことがあります。私も35ミリ支持者としては、その2社の契約条件は困りものだなというのがひとつ。
 もうひとつ、その2社(SONY、JDCS)と1社(デジタルシネマ倶楽部)の契約内容で大きく違う点があります。実はVPFのリース料は9万円から7万円と、会社によってばらつきがあるんですけど、デジタルシネマ倶楽部さんの場合、いわゆる「起算日」は東京の初日が100%でそこから数週間後に50%になったり20%になったりする形なんですね。ただ、SONYさんとJDCSさんの契約では、一番サイト数(公開館数)が多いときを起算日とするんです。
 例えば、うちの会社で今年の夏に『人生、ここにあり!』(11)というイタリア映画を配給したんですけど、まず東京の1館で始めて、その後、関西でやりました。東京は7月に始まったんですが、この11月のサイト数が一番多くて、ブルーレイの上映劇場を入れると10サイト以上で上映しています。その場合、SONYさんとJDCSさんの契約に則ると、今が起算日ということになるので、それ以前は全て9万円のリース料が加算されてしまうんです。
 それを回避する方法としては、公開当初のサイト数を多くして、それより多くならないように全国を回していくというのがひとつあります。それでも、サイト数が一番多いときに9万円かかってくると、9×10で最初に90万円、もうそれが限界なんですね。なので、10サイト以上は同時に上映できない。となると、今までは10何サイトで上映できていたのが不可能になってくる。それによって、配給会社としても地方の劇場さんとしても困りものなのが、回る速度が落ちていくんです。今まではブルーレイも含めて、数ヶ月後にはいろんな都市で同時にできていたのが、そのマックスを超えられないという壁ができてしまうので、地方都市に映画を回すのが今よりさらに遅くなってしまうというデメリットがあります。先ほどのヨーロッパシネマに関するお話の中で、デジタル化によって同時にたくさんの映画を上映できるというメリットが紹介されていましたけれども、向こうにはそういう枷がないのかなと思いました。
 で、結論に行きますと、その二点ですよね。35ミリ映写機を撤去しなければならないという契約条件と、起算日がマックスのサイト数に設定されているというこの二点が、今のところVPFに関する一番のネックだと思います。そういう契約条件について、SONYさんとJDCSさんに団体で交渉して、内容を変えたりできないかと今思っています。

古賀 補足しましょう。3社のうちSONY系とJDCS系では、いわゆる一番公開スクリーンが多かった週を1週目と考えて、そこから試算を始めるということです。ですから、東京1館で始めて、だんだん増えていった場合には、実際には5週目でもそこから始めて、だんだんVPFの料金が下がっていく。ただ、ブロードメディア系のデジタルシネマ倶楽部はそうではなくて、第1週目、最初に上映したところから計算が始まります。他の2社は一番スクリーン数が増えたところから試算が始まるので、ずいぶん先のほうまで高いVPFの費用を負担しないといけないわけです。

田井 VPF料金というのは週を追って確かに安くなっていくんです。どのサービサーでも起算日から7週目以降は、かなり料金が下がっていく。

古賀 だいたい7週目でどこも下がりますよね。

田井 ですから、あまり興収が上がらない劇場は、後半に持って行くということが起きてしまう。ところが後半といっても、SONY系とJDCS系では最大ブックになったときが1週目とされてしまうので、後半というのが一緒にずれていってしまうという問題ですね。

工藤 先ほどは時間がなかったので細かく説明できなかったんですが、ヨーロッパは国ごとに事情が違うようです。フランスに限って言うと、映画館がデジタル上映するための補助金を配給会社が払うように国の法律で決めたんですね。それで、いくら払うかというのは個別に交渉しろと。ただ、配給会社が不利にならないように、細かい条件がいろいろ付いているようです。起算日の設定については、最初の2週間で一番スクリーン数が多かったときという風に、国の法律で決められているようです。
 二つ目にイギリスの例なんですけれども、映画館が集まって自分たちのブッキングパターンですね、いつどういう風に上映してるのかというのを1年かけて研究したらしいんですね。そのうえでサービサーと交渉して、自分たちの上映パターンに合ったVPFの仕組みを作ってくれるサービサーと契約したそうです。要するに、私が言いたいのは、オーダーメイドをもうちょっと交渉してもいいんじゃないかということなんですけれども。

古賀 つまり、今のVPFサービサーが提供する3種類の契約内容に代わるオーダーメイドを、みんなで集まって交渉できないかということですよね。

工藤 それがベストかは分からないんですけど、選択肢の一つに入ってもいいのかなと。

古賀 そうですね。ヨーロッパの政府のサポートに関する話もありましたので、文化庁の佐伯さん、発言していただいてもよろしいですか。

佐伯 今日はみなさんの問題意識がどの辺なのかと確認したくてここへ来たんですが、このデジタルシフトはものすごく多岐にわたる問題だと思います。今回は上映の話が中心ですけれども、先ほど景山さんが言ったように、フィルムが失くなるという状態になったときに、現像所はどうするんだとか、技術者がいなくなったらフィルムの保存や修復はどうなるのか、もう至るところで問題が出てくるような気がするんですね。
 だから、そういうことを全部見て整理しないといけないな、というのが今の実感です。映画という分野領域の中で、劇場は一番の川下ですけど、それ以外のところでも同じように、デジタルへの移行がもたらす影響についての議論が必要だと思います。

古賀 ありがとうございます。ちなみに経産省のほうでは2009年から2010年にかけて、映画館のデジタル化を進める助成を行なっています。当時1000万から1500万と言われた費用の2/3を経産省が持つという形で、40スクリーンあまりがその制度を利用してデジタル化しました。そういう国の助成が日本にもないわけではないということも付け加えておきます。
 ですから、これからわれわれが集まって国に対してどういうことをお願いするのかという、次なるシステムを考えていかないといけないんじゃないかと思います。ここで、最近「シネレボ!」という団体を立ち上げて、観客の側から「今の状況はおかしい」という発言を始めておられる大野(敦子)さんから、どういう活動をなさっているのか、簡単に説明してもらえればと思います。

大野 私は普段、仕事では映画の製作のほうをやってるんですが、一映画ファンとして、まず現状についての正確な認識を持って、この問題について考える場を作れないかと思って「シネレボ!」という名前で活動を始めました。今日はUstream中継をやっているんですが、あまりにもたくさんの方がいらしてくれたこともあって回線が混み合ってるのか、配信がきちんとできていません。ただ、Ustreamの配信であったりツイッターからの発信であったり、一人の映画ファンにもできることがあるんじゃないかなと思っています。例えば、今日の議論を受けてツイッターでも「マイナーな映画を絶滅させたくないのか、映画館を絶滅させたくないのかどっちなんだ」とか、「もっとデジタル推進派の方の意見も聞きたい」という意見も出てきてるんですが、そういう議論の場をもっと活発にできたらなと思ってます。

田井 シネレボ!は「シネマレボリューション」の略ですよね。つまり、革命ってことですね。で、先ほど配給会社の方がVPFに関するご苦労の話をされたんですが、「VPFの起算日がいつになって、そうすると7週目がここにずれちゃうから・・・」とかって、いったいぜんたい配給というのはそういうパズルをやってゆく仕事なんでしょうか? そもそも配給という仕事が、そんなパズルを組み立ててVPFをいかに安く乗り切るかを考えるみたいな、そんな風になっていくこと自体がおかしいですよ。
 古賀さんがおっしゃいましたけれども、今は確かに映画史上最大の革命が起きているのかもしれない。でも、全然革命じゃないでしょう? つまり、ここでは上映機材が35ミリからデジタルになっちゃうんだという、機材の移行の話をしてる。でも、本当の革命というのは価値観が移行するってことですよ。でも、価値観は移行していないじゃないですか。
 既に崖っぷちというか、もう崖から落ちて袖が木に引っ掛かっているだけというか、そういう映画館が今まで以上に大変になる、メジャーは今まで以上にコストが安くなる、メジャーにとっては安泰というのは、今まで通りじゃないですか。しかも、VPFによって「地方にお届けできるのは今までより遅くなります」って、そんな馬鹿な。だって、デジタルが一番いいのは、われわれが地方にいても東京と同時に公開ができるからでしょう。だから、デジタルこそが地方と中央の差をなくすとか、メジャーとマイナーの差をなくしていくとか、そういう革命ができるはずなんですよ。ところが、革命に向かっていない、今の価値観が全然変わらない、それが僕は問題だと思うんです。
 今は東京でも恵比寿ガーデンシネマやシネセゾンがなくなって、アート系の映画館って大変なんだね、と言われる。でも、本当の革命が起きれば、今まで地方になかったような新しい映画館ができるかもしれない。それによって映画の流通とか様々なことが変わって、映画の価値観そのもの、映画館で映画を見るという行為自体が変わっていくかもしれない。そのときが初めて革命ですよ。今は何も革命が起きようとしてないことに問題があるんです。
 われわれは今、その革命をなんとかしてやりたいという話をしてるんだと思うんですよ。つまり、「お金がないから国が援助してくれないかな?」という話を一生懸命やってるだけじゃないんです。それだけでいいなら、ここに篤志家がいて「そうか、じゃあ、映画のために俺が一億円出してやる」とか言ったら済んじゃう話になる。でも、そういうことでは済まないんですよ。そこから始めて、スタートラインに立って、われわれがデジタルを使ってどんな新しい映画環境を作り上げることができるかってことを語らなければいけない。ですから、みなさんには本当にフランクに言ってほしいんです。専門用語とか出てくるので分かりづらいかもしれないけれども、「なんでデジタルになったら入場料が下がるって誰も言ってくれないの?」とか「もっと地方でもいろんな映画が見られるようになれると思っていたのに」とか。普通の人たちってそういう感覚を持ってるじゃないですか? 

古賀 議論するべきなのは革命のお話で、お金の問題ではないということですね。今深く頷いておられる利重監督、最後に一言いかがでしょうか。

利重 僕もこのところずっと勉強していて、田井さんが今おっしゃった通りだと思うんです。本当に革命ができる隙間があるような気がするんです。それを見つけださないと本当にやばい、本当の崖っぷちにいると思います。そのために何ができるのか、アイデアもいろいろあるんですが、一言二言で言えることではないので、いろんな場で提案していければと思っています。今は「こういう方法もあるんじゃないか」というブレストの時期ですから、アイデアを否定するのではなく、出し続けるっていうことをしなければいけない。世界中の映画が見られるのは日本だけだと思うんです。アメリカの映画も、ヨーロッパの映画も、中国の映画も、イランの映画も、全ての映画が見られるのはたぶん世界中で日本だけだと思います。とにかくその環境を守らなければいけない。
 そのために、今はヴァーチャル・プリント・フィー(VPF)の問題が一番大きいので、それをどうやってクリアするかっていうことを考えないといけないと思います。世界中の映画を見つけてきてくれているのが配給会社で、今まで踏ん張ってきてくれたおかげで、これだけの映画を見られる文化を日本は持ってるんだから、それを守らなければいけない。その先に、日本映画をどう作って制作費を回収していくかというシステムの問題があって、今それは本当に壊滅的な状況なんですが、その問題について話し合っていくと、そこに革命のきっかけがあるような気がするんです。日本映画も劇場だけで回収できるビジネスモデルが作れるんじゃないかと思うんです。
 最初に田井さんがおっしゃったように、今「2000万回収できればいいほうですよ」と言われる、じゃあ2000万の興行収入の中から劇場が半分取って、宣伝費をトップオフして、と考えたときに、じゃあ制作費をいくらに設定したらいいかといったら、600万でしか回収できない。そういう状況では、もう映画を作れないですよ。二次使用だってほとんどお金になりませんよって言われてる状況の中で、じゃあどうするのって言ったら、返さなくてもいいお金を持ってきて作りましょうよってことになる。でも、そんなのビジネスでもなんでもない。そうじゃなくて、映画を作る人が大儲けしなくてもいいから、とにかく映画を作り続けて見続けられる環境を作りたいと思うし、それができる可能性をデジタルの上映システムは持ってると思うんです。
 今は問題があまりに大きくて多岐にわたるからワーっとなってるけど、必ず出口があると思います。それをとにかくみんなで話し合わないといけない。アップリンクの浅井(隆)さんのように「新しい上映のシステムを考えれば、ヴァーチャル・プリント・フィーを払わないで済むんじゃないか」という提案をする人もいます。地方だったら、映画を愛する人たちがカンパして、ヴァーチャル・プリント・フィーを払わなくてもいいようにデジタル上映設備の導入費用をみんなで払いましょうよ、というお金の集め方だってできると思うんです。そういうものだと思うので、まだまだ方法はたくさんあると思います。

古賀 ありがとうございました。時間が過ぎてしまったので、これで終わりにいたします。デジタル化という革命を逆手に取って、より多くの外国映画、それから多様な日本映画が見られるような環境にするために、あるいは作られるような環境にするために、ここに来ているみなさんとまた話し合いの場を持っていきたいと思います。それから、シネレボ!という大野さんの団体が、そのとりあえずのプラットホームとして機能していきますので、みなさんホームページを訪ねていただいて、ネットワークを強めていきましょう。

土肥 ありがとうございます。今回はあまりにディープな話になるので触れられなかった35ミリ問題ですね、これもまた機会を設けていろんな意見が出されるようにしたいと思います。今日は本当にありがとうございました。またシネレボ!で頑張っていきたいので、よろしくお願いします。

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シネレボ!主催イベントのご案内
「映画の未来を考えよう! シネマライフvol.1 〜映画館を飛び出して〜」


出演:
浅井隆/UPLINK代表(東京/配給、ミニシアター運営)
長島源/CINEMA AMIGO代表(逗子/シネマ・カフェ)
片岡大樹/月世界旅行社代表(京都/自主製作、上映)

日時:1月22日(日)開場13:30/開始 14:00(17:00終了予定)
会場:オフィス・シロウズ
http://www.shirous.com(HPに地図あり)
最寄り駅:四谷三丁目駅or 曙橋駅
参加料:カンパ制(当日の運営費のためご協力お願いします。)

参加申込方法:件名「1月22日予約」として次の3項目を記入して、下記アドレスまでメールをお送り下さい。
(1)お名前 (2)人数 (3)電話番号

主催・お問い合わせ先:シネレボ!
メール:cinerevo21★gmail.com
※★を@に替えて送信して下さい。

※USTREAMにて中継予定
http://www.ustream.tv/user/cinerevo
http://cinerevo.com

posted by 映芸編集部 at 14:40 | イベント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする