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2012年07月31日

『こっぴどい猫』
今泉力哉(監督)インタビュー

 ドキュメンタリー『たまの映画』(10)や青春Hシリーズ『終わってる』(11)などで頭角を現す以前から、恋に狂う人々の人間模様を鋭く描いて傑出した短篇を量産してきた今泉力哉が、現時点の集大成ともいうべき130分の長編『こっぴどい猫』を完成させた。「モト冬樹生誕60周年記念作品」と銘打たれた本作は、あえて職業俳優を使わずに生々しい世界を現出させてきた作り手にとっては挑戦ともいえる企画。それでも、これまでのスタイルを崩さずに一貫した、独自の演出術に迫る。
(取材・構成:平澤竹識)

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公開館のK's cinema前にて

──今泉さんとは2009年のCO2(シネアスト・オーガニゼーション・大阪エキシビション)で『微温(ぬるま)』(07)が入選したときに知り合って以来、少しやり取りがあったんですよね。今日はこれまでの関係の総括的な意味合いでも(笑)、いろいろ伺えたらと思います。今回の映画は現時点の集大成という風にも感じたんですが、いかがですか。

今泉 今までのようなテイストの話でこれだけの人数を出したのは初めてなので、集大成的なところはあるかもしれないですね。ドキュメンタリーの『たまの映画』は別にして、ここまで準備をして撮ったものも今のところないですし、そういう意味ではモト冬樹さんが主演というのも大きかったというか・・・。

──「モト冬樹生誕60周年記念作品」という形で映画を作ることになったのは?(笑)

今泉 モトさんの事務所の社長をされてる小西(亮一)さんという方が自主映画を結構見ていて、声をかけてもらったのがきっかけです。今回制作をしてくれた1gramix.という団体があるんですけど、そのスタッフの方が小西さんと現場で会ったときに「60周年記念で形に残るものを作りたいんだけど、映画ってそんな簡単にできるの?」みたいなことを訊かれて、「あ、できますよ」って安請け合いしたのがきっかけで(笑)・・・あ、その後に小西さんが自主映画を見るようになったのかな。それで自分の過去の作品を気に入ってくれて、お会いして話をもらって、みたいなのが最初でした。そのときに出された条件も、60周年記念作品なんでモトさんが主演で、あとは好き勝手やっていいよ、みたいな感じで。長編っていう縛りもそのときあったのかな。まあ、劇場公開できたらいいね、ぐらいのことは言ってましたけど、もしかしたらイベント上映で終わるかもしれないぐらいの感じでした。

──1gramix.というのはこれまでの作品にも関わってます?

今泉 『TUESDAYGIRL』(11)という短編を作るときにそこでやったんです。「若い監督と俳優の出会いの場を作ろう」みたいな趣旨で、役者をしてた人たちが二人で立ち上げた団体なんですね。2〜3日間のワークショップ兼オーディションをして、そこから何人か選んで監督が作品を作るところまでを流れでやってるんですけど。『こっぴどい猫』もそこでオーディションを兼ねたワークショップをやったんで、モトさん以外のキャストは全員そこに来てくれた方なんです。

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──前にお会いしたとき、「いつもはクランクイン当日までシナリオをいじってるけど、今回は何日か前にシナリオをあげなくちゃいけないから大変」みたいな話をしてましたよね。違う形で映画を撮ってみてどうでした?

今泉 そう言われてたんですけど、結局あげられなくて、撮影を数カ月も延ばしてもらったんですよ。それで去年の8月1日から撮影になったんですけど、せめて7月20日までにはホンがないとヤバいぞって、1gramix.の人たちが20日にホンの読み合わせと衣裳合わせを設定してて、「ここまでには絶対あげます」みたいなことを言ってたんですけど、そのときにもホンがあがらず・・・。モトさんが来るのにホンがあがってないみたいな地獄の読み合わせがありました(笑)。それで撮影の3日前にホンがあがって、それも自分の中で面白がれなかったんで、撮影期間中も毎日脚本の差し替えをするっていう形で。さすがにロケ場所とか小道具がムチャクチャになるような直しはしないですけど、より面白くできるアイデアを常に考えて、毎日変えてくってことをしてました。

──それって今泉さんの映画作りの核心部分でもあると思うんですよね。ギリギリまでホンを固めないというのは意図的なところもあるんじゃないですか。

今泉 ホンを変えていくのはそうですね。その場で生まれることはできる限り作品に取り込みたいと思ってるんで。「エアーズロック」(12/山下敦弘と共同脚本・共同監督)っていう深夜ドラマの現場ですら結構当日に変えてたので、やっぱりギリギリまでそういうことをしようっていう意識はあるんですよね。ただ、周りのスタッフの動きを考えるとホンは早めにあったほうがいいし、ちゃんと準備したい気持ちはあるんですよ。でも、前日の夜にしかアイデアが思いつかなかったり、現場で思いついたことのほうが正しいと思ったら取り入れたりとかはしてますね。

──今泉さんの何がすごいって、一つは役者の生々しい存在感だと思うんですね。役者さんのキャラクターとその役柄が密着してるように見える。事前にカッチリした脚本があると役者さんが役を作ってきてしまうから、それを嫌がってる部分もあるんじゃないですか。

今泉 嫌は嫌なんですよね。ただ、もちろん準備期間があったほうがいい人もいると思います。今回も、この人とこの人は「準備ができたほうがいい人」とか、この人とこの人は「時間があったら準備しちゃう人」とか、そういうのはあったんですけど、モトさんと自分がすごく合ったなと思うのは、モトさんは当日脚本を差し替えることに対しても怒ったりしないんですよ。これまでも事前にホンをちゃんと覚えるっていうよりは、前日に台詞を入れてくるぐらいの感覚で仕事をされてたらしいんです。「固めちゃっても、相手によって反応変わるからね」みたいな、芝居についての考え方がすごく近くて、そこはよかったですね。モトさんは過去の自分の作品を見て、脚本がないと思ってたらしいんですよ。台詞とかカット割りとか決まってなくて、「こういう話をしてください」ぐらいの指示しかないと思ってたみたいで、初日にカットを割って撮ってたら、「ちゃんと撮るんだね」って言われました(笑)。

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──シナリオを書くときに当て書き的なこともされてるわけですか。

今泉 今回はそうでしたね。ホンのほうが後だったんで、キャストを選んだ後に全員をホンにはめていった感じです。だから逆に、役者さんに引っ張られて、ホンの内容が変わったところもありました。やっぱり役者さんから発想してるところはありますね。

──ここまで大人数が出てくる群集劇にするというのは、そもそもワークショップから役者さんをキャスティングするという条件があったからなんですか。

今泉 ワークショップからは男女一人ずつ使えばいいぐらいの条件しか出されてなくて、他は自分でキャスティングしてもよかったんですよね。ただ、そこに来た人たちが面白かったんですよ。全部で40人ぐらいお会いして、最初そこから7人を選んだんです。最初に「この7人でいきたい」って1gramix.の人たちに伝えたら、「一度考え直してください。今泉さん、7人も出てる映画作ったことないでしょ」って言われて(笑)、「ちょっと持ち帰ります」って考えた結果、11人ていうよく分かんない人数になりました(笑)。そのときはどういう作品にするかも決まってなかったんですけど、モトさんがいるってことで家族の話みたいなことになっていくのかなっていう予感があって、それで人数が多くいけると思ったんですかね。

──まず伝えたい物語があるというよりも、役者がよければ面白くなるっていう確信があるんでしょうね。

今泉 それはきっとありますね。

──そこで言う「いい役者」の基準って何なんですか。

今泉 うまさよりも「この人、面白いな」って自分が思えるかどうかじゃないですかね。たぶん7人から11人になったときに増えた人は「うまい人」だった気がするんですよ。うまい人よりは、「なんだ、この人」とか「この人、面白いな」っていう人を最初に選んでたんだと思います。ワークショップ中にいつもの自分の芝居の付け方を試していく中で、それができるかどうかもあるんですけど、例えばモトさんの息子役の平井(正吾)は芝居経験のない大学生だったんですよ。その役のポジションでもう一人うまい人がいたんですけど、やっぱりうまい人よりも彼の危なっかしさに惹かれて選びましたし。

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──現場ではどういう感じで演出してるんですか。

今泉 現場では一番下にいるように心がけてる感じですかね。なるべく何もしないのが理想だと思ってて。あとは、絶対的な決定権を自分が持たないというか。モトさんにも毎日ホンの差し替えを持って行きましたけど、新しく持って行ったほうが「これ、前のほうがよくない?」って言われて戻したりしたこともあったんで(笑)。現場・・・どうなんですかね。

──でも、今泉さんの映画に出てる役者さんの在りようってそんなに見ないんで、やっぱり他の現場とは違うことをしてると思うんですよね。

今泉 他の人の作品にも出てる役者さんで、「自分の映画だったら、全然違う感じで使えるな」って思う人と、「この人はうまかったり、見た目がよかったりするけど、自分の映画ではあんまりだな」って思う人はいますね。これはワークショップをやらしてもらって逆に学んだ部分なんですけど、ほんとにうまい人って、どれだけ相手の話を聞けるか、相手の芝居を受けれるかだと思うんですよ。基本的にそれができるかどうかかなって気はします。「自分が自分が」みたいなタイプの人はほとんど俺の映画に出てないというか、「自分が自分が」タイプの人でも全部を受け入れたうえで自分を出してる人はいいんですよね。そういう意味じゃ、今回出てる三浦(英)とか自分をガンガン出してくるけど、周りの芝居を受けれてたんで、そういうところは気にしてるかもしれないです。

──芝居経験のない平井さんを使ったのも、普段の会話で人の話をちゃんと聞けてるとか、そういうところを見てるわけですか。

今泉 芝居の経験はないんですけど、やっぱり彼は相手の芝居を受けれるんですよね。相手がどう出てくるかによって、自分も変われるというか。

──そこって役者さんによって違うものなんですね。

今泉 いやあ、全然違いますね。相手がどうこようと変わらない役者さんもいるし、それが一番の問題だって話はワークショップでもよくしてるんですけど。相手の出方によって変われないと、役者としてはヤバいと思います。さっき言ってたような、台本が事前に用意されてると役者が芝居を固めてきちゃうという問題もあると思うけど、やっぱり相手があって初めて芝居のやり方が変わってこないと、ちょっと見てて厳しいかなって気はしちゃいますね。でも、平井に関してはもちろん不安もあったんで、うまい後藤(ユウミ)さんとカップル役で組ませるとか、そういうことは考えてました。

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──映画の場合は、そこにカメラが入ってくるわけじゃないですか。今泉さんがすごいと思うのは、ワンカットの長廻しでその場の空気感を撮ってるだけじゃなくて、ちゃんとカットを割ってますよね。その辺のバランスはどうされてるんですか。

今泉 現場ではカット割りとか全く分かってなくて、ほんとに全部撮ってる感じなんですよ。カメラがいくつもあれば違いますけど、寄りの芝居も途中からだとやりにくいんで、引きで最初から最後まで撮ったら、寄りも最初から最後まで撮るみたいに、全部撮ってるんです。それで編集のときに、寄りのカットに移るタイミングとか、引きでもつなら引きだけ使うとか、そういうことを決めていく。セオリーで言うと、引きを撮って、その後に寄りを撮って、という感じでやるんですけど、やっぱり何回も繰り返していくうちに芝居ってよくなってきたりするし、一人を寄りで撮ってるときに撮られてない人の芝居がカメラを意識してないからよかったりするんですね。そういうことが見えてきたら、カメラマンとか照明のスタッフに「もう一回になって申し訳ないけど」って、最後にもう一回引きを撮ったりはします。「今、芝居がだいぶよくなってきてるから、これだったら引きのワンカットで全部見せられるかも」っていう。

──撮ってないように見せかけて撮っちゃうとかはしてないんですね。

今泉 それはしてないですね。ただ、「ここまでやります」って撮り始めてるのにそれを無視して、役者がここまで行くと思ってなかったところの芝居をさせることはあります。こないだの『ヴァージン』(12/10代編「くちばっか」)ていう映画でもそういう撮り方をしたんですけど、そういう風にやると変な緊張感が出るんで、気まずい空気がほしいシーンとかはわざと長く廻したりします。あとは、寄りのカットを改めて撮らずに、カメラマンに「今、手元のとこだけ寄っといて」とか耳うちして、一連で撮っちゃったりすることもありますね。例えば、無意識に指先を動かしてる動作とか、こっちが改めて「やって」って言うと芝居っぽくなったりするんで、役者さんが表情を撮ってると思ってる間に、カメラマンに話してこっそり撮るっていう。

──今泉さんは「うまい人」よりも「面白い人」を使うし、相手の出方によって変わっていく演技をよしとしてるわけですよね。引きも寄りも一連で撮るとなったときに、テイクによって動きが変わっていったりすると思うんですけど、編集のときに繋がらなくなったりはしないんですか。

今泉 それもあるんですけど、例えば食事しながらのシーンの寄り・引きで言うと、サイズ感的にちょっと詰めて、手元をフレームから切ったりするんですよ。あと、僕の場合は二人を撮るときに、ツー(二人)で撮って、ワン・ワン(一人、一人)の切り返しが多くて、それもナメる(手前に人物を入れ込んで撮る)と後で繋がらなくなるからなんです。役者さんにも「同じ動きをしてくれ」って指示はあまりしないですね。うまい人はやってくれますけど、プロじゃない人にそう言って、そっちの意識が膨らむのが嫌なんで、もう自由にやってもらいます。「繋がるとか繋がらないとかはこっちの仕事なんで」みたいなことを言って、「好きにやってください」って。

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──繋がらなくなりそうな要素は排除して、役者さんには自由にやってもらうわけですね。

今泉 『最低』のときは特にそうでしたけど、普通のアップのサイズよりもワンサイズぐらい寄って撮ってるんですね。自主映画だから美術の作り込みもへったくれもないし、表情だけを見せるほうが画(え)としてもつんですよ。『最低』のときは、それを意識的にやってました。

──板付きで二人を正面から撮ってる長廻しのカットを使ってたりするじゃないですか。ああいうシーンでも寄りのカットをそれぞれ撮ってるんですか。

今泉 場所によりますね。モトさんと小宮(一葉)が部屋にいて、小宮が泣いてモトさんが頭を撫でるシーンの寄りは撮ってないけど、平井と後藤さんが最初に登場する、ソファの上で二人が話してるシーンでは寄りを撮ってます。あの二人のシーンはまさにツーを撮った後に、それぞれワンで撮ったんだけど、この切り返しじゃもたないと思って、「芝居がよくなってきたんで、もう一回引いて撮っていいですか?」って聞いて撮り直したんですよね。

──それも現場で芝居を見て判断してるんですね。

今泉 そうですね。前のシーンからの繋がりがどうなるかも編集してみないと分からないし、あのシーンの前後の流れも脚本と完成した映画では全然違います。

──準備と現場と編集の段階でイメージがどんどん更新されていくっていう。

今泉 「まだできる、まだできる」っていう感じでやってます。

──あと、今泉さんの映画は『微温』の頃から光に対する感覚が繊細というか、言葉は悪いかもしれないけど、画面がおしゃれな感じがするんですよね。

今泉 ああ、『微温』のときはおしゃれな部屋でしたけどね(笑)。

──カメラマンが変わっても、映像のタッチは変わらないから、今泉さんがこだわってる部分なのかなと思ったんですけど。

今泉 それは画を動かさないってことと関係あるかもしれないですね。人が動きながら芝居をするシーンも、基本的にフィックスの画が多いんですよ。まあ、作品によって違うし、いまだに分かんないんですけど、確実に分かってきたのは、フィックスのときとフィックスじゃないときに、俺の演出力が全然違うんです(笑)。人が動いたり、カメラマンが動いたりしてるときって、芝居が全く見れなくなるんですよ。どうでもよくなってくるんです、ほんとに(笑)。歩き芝居のときは、テストとか練習はなるべく付き合うんですけど、本番は「よーい、スタート」って足音立てずにゴール地点まで行って、芝居も全く見ずに「カット、OKです!」ってやってるぐらい、外の撮影とかフィックスじゃない状況だと全然ダメで。でも、おしゃれに見えるっていうのはなんだろう。部屋の雰囲気とかじゃないんですかね。

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──今回で言うと、小宮さんの部屋で夕方の光をバックにした引きの画面とかもすごくきれいだし。あと、アップに寄ったときに女の子がみんなきれいに見える感じはどの作品にも共通してますよね。

今泉 「女の子がきれい」ってよく言われるんですけど、カメラマンに「こう撮ってくれ」みたいなこともそんなに言ってないんですよ。なんだろう、寄りを撮るときに「今から表情を撮ります」みたいな感じじゃなくて、前後の芝居の流れの中で撮ったものを使ってるんで、自然な表情が撮れてる部分はあるのかもしれないですね。ただ「ボーっとした表情を撮ります」とかじゃなくて、その前後もやったうえで撮るから、役者さん的にもやりやすいところはあるのかもしれないです。

──画面がきれいっていうより、人間が生きてる状態を撮ってるからきれいに見えるってことなんですかね。

今泉 そうなってれば嬉しいですね。『微温』ときは主演の女の子にコクってフラれてみたいな裏の事情があったけど(※詳細)、今回の映画を見た人から「小宮のこと絶対好きでしょ」みたいに言われたりするのは嬉しいですよね。実際はそうじゃなくても、そういう風に見えてればいいなって。

──女性陣はみんなきれいに映ってましたよね。それこそチラシのビジュアルで見る印象と全然違う・・・とか言ったら失礼ですけど(笑)。

今泉 まあ、この写真は「きれいに」とかじゃなくて、完全にネタ的な部分があるんで・・・(笑)。その中でもモトさんが全然変わらないのはすごいですけどね。

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──モトさんっていわゆる芸能人ぽい方だと思ってたんですけど、ごく自然に今泉さんの映画の中に存在してることが意外でした。

今泉 俺もああいう芝居がどれだけできるか分からなかったんですけど、撮影前に一緒に酒を飲ましてもらったときに、自分の過去の作品を面白がってくれたのが大きかったと思います。最初に「ドキュメンタリーみたいだ」って言ってくれて、「自分がそこに入れるか不安だ」とか「挑戦だね、俺も」みたいなことを言ってくれたんですよ。そこまで理解があったんで、不安は結構なくなりましたね。

──ここからお話の部分についても突っ込んで伺いたいんですけど。以前、『終わってる』について僕がイチャモンをつけてしまったことがあって(※詳細)、今回のラストにも似たような違和感を持ってしまったんですけど、それは今泉さんにも伝えたんですよね。その後、それってなんだろうって改めて考えてみて。今回も物語はモトさんの話として終わってるんだけど、映画のラストカットは小宮さんに収斂していくじゃないですか。彼女のアップに『こっぴどい猫』ってタイトルが被って終わる。そうすると、見てるほうの気持ちがそっちに行っちゃうんですよね。

今泉 ああ、モトさんで終われっていうことですか。

──そのほうが映画だという感じが僕はしちゃうんですよね。逆に、小宮さんの話として見たときに、「悪女もの」と呼ばれるようなジャンルもあると思うんですけど、その場合はヒロインの中にある業とか、そうなってしまった背景とかに迫っていくじゃないですか。だから、観客もどっか共感を持って見れるところがあると思うんですけど、『終わってる』も今回も、彼女たちの中にある虚無みたいなものが最後に投げ出されてる感じがするんです。今泉さんがあのヒロインたちに共感を持ってるとは思えないし、ああいうラストをどう受け止めていいのか戸惑うんですよね。

今泉 終わり方に関しては、エンドロールは黒背景にして小宮がピアノで弾いてる曲だけ使えばよかったじゃないかっていう意見とか、モトさんが新作を書き始めるところで終われるじゃないかっていう意見もすごくあったんですね。エンドロールが黒背景だったら、あの曲をフルに使わなくても終われるし、尺の問題も含めていろんな意見が出たんです。それで仕上げる前に、初めてプロの編集技師の方に見てもらって、その方にもやっぱり「ラストの二人の画はいらない」って言われたりしたんですよね。ただ、最終的な自分の考えとしては、映画はモトさんが新作を書き始めるあのラストで終わっていて、そのときに書いたであろう「こっぴどい猫」という小説の冒頭文がテロップで出た後にモトさんと小宮の画を使ってますけど、あれはほんとにエンドロールの感覚で使ってるんですよ。

──たしかにラストはオマケとして見ればいいのかもしれないんですけど、なんかモトさんよりも小宮さんが残っちゃうんですよね。

今泉 きっと潔さがないんですよね。エンドロールに使ってる二人のシーンも、脚本の時点でああするつもりはなくて、編集で決めたんですよ。なんですかね、モトさんにとって一番幸せだったときというか、二人が一番分かり合えてたときの映像をラストに持ってくることで何か余韻が出るかなと思ったところはあったんです。でも、萩生田(宏治)さんが映画祭で見てくれたときに、あれを最後に持ってくるんじゃなくて、時制通りに見せておいて、モトさんが小宮にこれだけ惚れてるみたいな表情があると、その後をもう少し違う感じで見れるかも、みたいなことを言われて。たしかに、と思ったりはしたんですよね。その後、いろいろ試してはみたんですけど、なんかハマらなかったんですよ。

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──恋愛をめぐる人間模様に対する洞察力はものすごいなあって毎回思うんですよね。しかも、今回これだけの大人数を出して、新しいシチュエーションを生み出してしまう。その構成力にも突出したものを感じるんですけど、一方で今のそういう入り組んだ人間関係の中で自分たちがどう生きていけばいいのか、とりあえずの答えでもいいから映画の中で見たいと思っちゃうんですよね。映画なんだし、リアルな人間模様の先に理想を見たくなってしまうというか・・・すいません、エラそうなことばっかり言って。

今泉 いやいや。たしかにでも、「好き」って思いだけはきちんと伝わってくるような人がいてもいいのかもしれないですね。一組ぐらい全く関係のない幸せなカップルがいたりとか、そういう人がいてもよかったのかな。今回に関しては、そういうのを一切なくすぐらいの勢いでやってたから、サブエピソードのサブぐらいの自分が出てるパートもグダグダにしちゃったし、あのパートも元の台本ではほんとに純粋な話だったときもあるんですよ。でも今回の映画では、どのカップルも幸せじゃなくなるような、そういう方向に振りきってたんでしょうね。

──今泉さん自身は硬派な人じゃないですか。作品に出してるような刹那的な登場人物との距離感ってどうバランスを取ってるんですか。

今泉 それは平澤さんが思ってるほど俺が硬派じゃないって話なんじゃないですか(笑)。硬派な話もやってみたいと思いますけどね。今はベタなものとかいい話みたいなものに対する照れじゃないけど、そういうのが自分の中にあるんだと思います。映画祭で自分の短編を鈴木卓爾さんに見てもらったときに、「今泉さんはいい話はやりたくないとかあるんですか」みたいになって「いい話は今できないですね」みたいなことを言ったら、「いい話は年取ったらできると思ってるでしょ。でも違うんですよ」「いい話をやったらいいんじゃないですか」って言われて、やってみたいとは思うんですけどね。ただ、ほんとに理想じゃないですけど、こういう映画ができたらなあと思うのは、浮気がどうこうじゃなくて、カップル二人だけの話で、そこに本当の愛情があるかないかみたいなことはやってみたいです。浮気相手とか第三者を出すことで、そういうものが描きやすくはなってるけど、そうじゃなくて、ほんとに二人だけの関係性の中で恋愛の不安を描くことには興味があって。なんだろう。恋愛の純粋さみたいなことよりは、恋愛にまつわる答えのない不安とか、確実じゃないものに対する不安を描くことに興味はあります。

──二人きりの関係の中でそういうことを今泉さんが描いたら面白くなりそうですね。前に『恋人までの距離(ディスタンス)』(95 リチャード・リンクレイター)とか『ビフォア・サンセット』(04 同)とか『パリ、恋人たちの2日間』(07 ジュリー・デルピー)とか好きだって言ってませんでした?

今泉 あれは面白いですね。ただ、役者の力量とかいろんなことがないと、ああいう映画を撮るのは厳しいと思います。でも、昨日撮影したのがまさにカップル二人の映画なんですよ。『こっぴどい猫』のスピンオフみたいな短編で、平井と後藤さんのカップルの後日談なんですね。『ターポリン』ってタイトルなんですけど、子供がデキて結婚するしないでもめてた二人が普通に結婚した後の話で(『ターポリン』の上映に関しては末尾を参照)。映画太郎ってイベントのために撮り下ろしたんですけど、編集する時間がないからワンカット映画を撮ろうみたいな話になって、結局そうしたんです。そこでやろうとしてたのは、理由の分からない苛立ちみたいなことなんですけど、いろいろ難しかったですね、結論もないし。ただ、そういうシンプルな話はこれからもやってみたいです。



『こっぴどい猫』
監督・脚本・編集:今泉力哉
エグゼクティブプロデューサー:小西亮一 
撮影:岩永洋 照明:長田青海 録音:宋晋端 音楽:松本章 
助監督:平波亘 衣裳:山本屋歩 ヘアメイク:寺沢ルミ 
制作:手島昭一 アソシエイトプロデューサー:一ノ瀬優太朗 
出演:モト冬樹 小宮一葉 内村遥 三浦英 小石川祐子 
平井正吾 後藤ユウミ 高木珠里 結 工藤響 
今泉力哉 木村知貴 前彩子 泉光典 青山花織
企画・製作:DUDES、1gramix. (C)DUDES
2012/HD/130分

公式サイト http://koppidoi-neko.com/

*新宿・K's cinemaにて公開中
*札幌・蠍座、名古屋・シネマスコーレ、大阪・第七藝術劇場、
京都みなみ会館、兵庫・元町映画館にて全国順次


【関連上映イベント「こっぴどい猫背」】
8月5日(日)、26日(日)
MOOSIC LAB×今泉力哉&新作プレミア
『nico』(12 今泉力哉) 『ターポリン』(12 今泉力哉)

8月12日(日)
今泉力哉VS同世代インディーズ監督陣
『足手』(10 今泉力哉) 『party』(11 片岡翔)
『楽しんでほしい』(12 二ノ宮隆太郎) 『ひねくれてもポップ』(11 村松英治)

8月19日(日)
今泉力哉VS前田弘二
『古奈子は男選びが悪い』(07 前田弘二) 『最低』(09 今泉力哉)

場所:新宿・K's cimema
全て20時50分〜

公式ブログ http://news.koppidoi-neko.com/article/277448665.html

posted by 映芸編集部 at 15:05 | インタビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする