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2007年11月06日

『ホッテントットエプロンースケッチ』『眠り姫』『マリッジリング』
七里圭監督インタビュー 

安寿と厨子王の物語を下敷きにした姉弟の物語『のんきな姉さん』が04年にテアトル新宿ほか全国で公開され、独特の映像世界が話題となった七里圭監督。その新作三本が11~12月に一挙上映されます。愛知芸術文化センターの企画による『ホッテントットエプロンースケッチ』、自主製作で撮り上げた『眠り姫』、渡辺淳一原作の商業映画『マリッジリング』と、多彩な活動を見せる異才の原点に落語家・夢月亭清麿さんが迫りました。

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──お生まれはどちらですか。

生まれは東京ですが中高は名古屋です。で、またこっちに戻ってきて、今は井の頭公園の近くで、飲んだくれています(笑)。

──大学に入る前から、映画は好きだったんですか。

沢山映画を観始めたのは、浪人していた時期だったんですけれど、その時だったか大学入ってからか、三隅研次監督で市川雷蔵主演の『斬る』(68)を観た時、初めて観に行ったつもりだったのに、これはなんか観た事があると。

──はいはい、なるほど。

僕は親が離婚していまして、父親が勝新、若山富三郎好きだったんですよ。それで子供の頃よく勝プロのテレビとか、映画に連れられていた事をその時に思い出しました。だからすごく大映映画が懐かしいんです。リアルタイムではないと思いますけど…。リバイバルかテレビなのか…。それが子供の頃のちょっと特異的な体験ですかね。

──『斬る』が心に残るって言うのはわかる気がしますね。

俯瞰でサッ、サッ、サッと襖が開いてカメラがこうなるじゃないですか、あれを強烈に覚えていて。

──大学に入ってすぐにシネ研に入ったんですか。

高校生の時、8mmで自主映画を撮ってPFFに入選しちゃったんです。それがきっかけと言えばきっかけですね。それまで陸上部だったんですよ(笑)、1500mをやっていました。

──1500mですか、カッコいいなぁ。

いや、カッコいいというか辛いだけなんですけど。中学の時は結構頑張っていたんです。そうしたら高校はとても陸上部が弱い学校で、先輩のタイムが悪かった。それで練習しなくなってしまって映画を撮り始めたんですね。

──PFFに応募した作品はどんな内容だったんですか。

観念的でしたね(笑)、先輩が面白いからこういうのに応募してみたらと言って。『うる星やつら ビューティフルドリーマー』(84)の影響がとても強い作品でした。こんな話があるのかとすごく面白かった。それがたまたま入選したんですよ。高校生の頃ですからちょっと有頂天になるじゃないですか、褒められたりすると(笑)。

──そういう年頃ですよね(笑)。

それで映画監督になりたいっていうか、そのあとも撮りたいなと。でもPFFに入選した事より大きかったのが、その年の東京国際映画祭とPFFが協賛企画だったかどうかは定かではないんですけど同時期に開催していて、映画のチケットをいっぱいもらったんですよ。僕は名古屋に住んでいて、しかも中間試験か期末試験と重なっていたんですけど、ドサッとチケットが届いて観に来なさいよと言われたら、行きたくなっちゃうじゃないですか。試験ぶっちぎって観に行きましたね(笑)。その時に映画館ではなかなか観られない映画を沢山観たんです。もらったチケットを全部使ってやろうと朝から晩まで観ました。

──高校生のエネルギーですよね。

その衝撃がものすごく大きかった。それで今度は映画なんかやっていちゃまずいな、あまりにも映画を知らないなって思っちゃったんですよね。もう一つ、ある映画の現場に見学に行った時に、プロの厳しさを目の当たりにして途方もない世界だなと、それで大学を受けました。多分そういう事がなければ、入選した勢いですぐに映画界という夢を描けたと思うんですけど。それで大学に行ったのに何故か映画サークルに入っちゃった(笑)。そこで沢山映画を観る事になるんですよね。

──影響を受けた作品はありますか。

もう映画と名の付くものは全部観るっていう感じだったので、何がっていうのはなかったですね。その頃シネ研は自主映画を作るのも盛んで、授業に出ていると不良だと言われるんですよ(笑)。先輩の手伝いには行かないといけないし、映画も沢山観ないと怒られるという環境で。一日に10本位観る日もありましたね。

──10本はすごいですね。

亀有名画座で4本観て、文芸坐で3本観て、そのままオールナイト観てっていう状況になると、どの映画だったのかわんなくなってくる(笑)。僕が影響を受けたのは、そういう映画体験だと思うんです。一本の映画にすごく心酔したとかこの監督にシビレたとか勿論あるんですけど、無茶苦茶な量のものすごい幅の映画を沢山観た、という事が現在に繋がっていると思います。

──それで大学を卒業する時期になったわけですが……。

僕のいた頃はまだバブルの残り火があったので、大手に就職された方も多かったですね。ただ僕はクソ真面目に現場の手伝いに行っていました。そうすると先輩というかOBの方々が、ディレクターズ・カンパニーとかプロの現場で撮り始めていたんです。それで「DRAMADAS」という関西TVの深夜ドラマにもかり出されるようになりました。だから大学3年、4年の頃には現場に助監督みたいな感じで入っていましたね。そのまんま就職活動を一度もする事なく、映画を手伝っている日々がその後も続くという(笑)。それがある時期からお金が貰えるようになって、ひょっとしたらこれで暮らしていけるかなと。

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『眠り姫』

──シナリオはいつ頃から書き始めたんですか。

シナリオはですね…。僕は日本語がものすごく下手で大学時代は書けなかったんですよ。鋭い後輩がいまして「七里さんがダメなのは、シナリオが書けないからだ」と言われてしまって(笑)、その時までシナリオを書かないと映画が撮れないという事をあまり深く考えていなかったんですよね。高校の時から8mmのカメラを回す事から映画を撮り始めてしまったので、そこであらためてシナリオを勉強しようと思いました。またちょうどその頃に、シネ研のイベントで中原俊監督をお呼びして『猫のように』(88)を上映したんです。それがとても良くて、あのカットがいいとか生意気を言ってたら、ゲストでいらしていた脚本家の斎藤博さんが「なに言ってんだ、シナリオはもっと良かったんだ」とおっしゃたんですね。それで僕は、アメリカン・ハウスのどこからでも侵入出来るオープンな空間、密室になっていない密室劇というのがすごく面白かったと話をしたら、斎藤さんがあれは高層マンションで考えていたんだ、最後ガラスを割って入って来るのもターザンのように屋上から来るんだと言うわけです。それはもう全然違う映画じゃないですかって言ったら、斎藤さんが学生の僕に「じゃあ俺のシナリオ読んでくれよ」って送ってくれたんです。それで初めて印刷台本というものを読んで、シナリオってこういうものなんだと。すごく有難い経験でしたね。あとこれは言っておきたいんですけど、僕、シナリオをいただいたお礼をしなかったんです。

──斎藤さんにですか。

そういう事はきちんとしなければいけないのに、社会常識のない学生だったので、ただ自分一人で感動していたんですね。それから5年くらいしてからだと思うんですが、偶然入っていた現場のプロデューサーに斎藤さんが亡くなられたと連絡が来たんです。

──若かったし、急でしたよね。

とうとうお礼をする機会を無くしてしまったと…。そういう事を思い出しました。今も家にありますけど、何度も読み返しています。

──現在は両方やられていますよね。『L`amant ラ・マン』(05)とか『犬と歩けばチロリとタムラ』(04)はシナリオライターとして書いていますよね。

助監督やりながらライター業みたいな事をしていた時期があるんです。ちょうど先輩の高橋洋さんがシナリオライターとして忙しくなって来た頃で、周りに井川耕一郎さんとかいらして。それで食えない助監督である僕に区民誌の文章を書く仕事なんかが回ってきたりしました。シナリオには直結しないような文章修業を自分なりにしていましたね。

──今はテレビで『世界遺産』の構成をやっていますね。

そういう経験があるから出来るんだと思います。でもシナリオはやっぱり難しいですよね。

──そして『のんきな姉さん』(04)を監督、脚本で撮りますね。Vシネとかは別にすると劇場公開作品としてはデビュー作という事になると思いますが、チャンス到来という感じでしたか。

色々な目に合ったというか経験してきましたから(笑)。でもシナリオが本当に書けなくて、その時も一年くらいはこもっていましたね。頑張って書きました。

──製作自体はうまく進んだんですか。

いや、撮影に入るまでに紆余曲折があって、終了してからも製作会社の問題なんかで初号が迎えられなかったんです。なんとかオールラッシュを観て出資してくれる方が現れて初号までいっても、それからまた更に公開まで時間がかかりました。全然華々しくないんですよ(笑)。

──今の時代、色々な映画学校が出て来て監督を目指す人がどんどん増えています。監督になっても撮り続けるというのは大変難しいですよね。

僕はそういう意味では一応映画を作れたので幸せなほうだと思います。いまはそうじゃない所から監督になる方が多いじゃないですか。だからずっと現場で助監督をやってきた人や、シナリオの修行をされてきた人がちょっと不遇な時代だなという気はします。

──色々下積みといいますか、やはり七里さんご自身助監督の経験が大きくプラスになっていますか。

そうですね、『眠り姫』『ホッテントット〜』もそうですけど、それがなければ『マリッジリング』のような作品は出来なかったです。そういう意味では助監督経験はかけがえのないものです。

──では11月17日(土)からユーロスペースにてレイトショー公開される『眠り姫』のお話を。一度試写で観てなんかすごい映画を観たけど、どう言ったものかと悩んだんです。それで、2度目にシネマアートン下北沢で朝早めの試写を観たんですけど、あそこは劇場が2階ですよね、それで風通しがいいというか、空間が貫けて行くというか、非常に「気」の流れを感じましてね。これは「気」の映画だと思ったんです。

確かに「気」の映画ですね。

──その空気が漂っている感じが非常に心地よく観ました。オープニングが3分、4分ですか、夜が明けるまでをずっと長回しで撮っているじゃないですか、コマ落としをしないでそのまま撮ったんですか。

あれはリアルタイムで撮っています。

──夜から朝へ明けて行く大気の流れを描いて、次に女の人がトイレから出て来て「このトイレには誰かがいるようだ」という人の気配を描いて行く、非常に特徴的ですよね。

映画ってすごく不自由な表現だというのがあって、観念みたいなものを描く事は難しいと思うんです。ラジオドラマは声しか聞こえないから想像して考えますよね。そういう事を映画でどうやるのかというところで、一つ抜くというか、人を写さないとか…。実験というかそういう方法でチャレンジしました。

──人を写さないというのは非常に効果的ですよね。人の会話が聞こえて来て、普通の劇映画のように物語自体は進んで行くんですけど、画面の中には顔のアップどころか人体らしきものも現れてこない、会話と音楽と物音だけで気配を感じさせる。

主観カットで見ている人が写らない、というのは普通ですが、見ている先も人がいない、切り返しても人がいないというのはあまりないかも知れない(笑)。

──そうですね、ドキュメンタリーではよくありますけれど、劇映画でここまで人が写ってこないというのは、ちょっと思い当たらない。

心の中の風景だと考えると、人と一緒にいるのに人が見えていない時がありますよね。それを映像化するとこうなるのではないかと思ったんです。

──主人公の心情や、よく分らない空間の気配みたいな普通映画が写せないものをひたすら撮ろうとしています。それを観る側が感じるか感じないかということを強いてきますよね。

物語を描くためにジャンプして行く時間というのがありますよね。でもそのジャンプした方がいい時間にも人は生きているはずだし、その時間にも人は想っている訳だし、そういう何も起きていない時間だけを繋いで行きたいとは考えていました。

──この企画でどうプロデューサーを説得したんですか。

これは自主映画ですが、もし出資してくれる会社があったらすごい事ですね(笑)。何もない状態だったら「いいね、出資するよ」みたいな事は、起こり得ないと思いますが、わりと長い時間をかけていたので、その中で人が入って来てくれました。この作品は実は2年位前に生演奏付きの上映イベントをやったんです。その時に予想以上のお客さんが集まってくれた事が今回の公開に繋がりました。段階ごとに結果が出せたし、結果を見てくれる人がいた、それはもう人に恵まれているとしか言いようがないですね。

──この作品はマニアックに好きになる人は多いと思います。

こちらも作っている時間が長いので色んな事を込めています。こんな贅沢な事言うと怒られちゃうかもしれないですけど、2度3度と観ると本当に色々と考えてもらえると思います。

──BGVとは違うんですよね。大袈裟な事を言うと哲学的な思考というか、芸術的な感性を刺激されますよ。

いや(笑)、でもBGVと違うのはきちんと物語があるので、話がわらなくなる事はないと思います。原作は山本直樹さんの『眠り姫』という漫画ですが、その漫画自体が内田百間の『山高帽子』という短編小説が原作なんです。それを山本さんが現代に置き換えているんですが、内田百間に山本直樹なので奇妙な話になるに決まっているんですけどね(笑)。

──そうですね、話の持って行きようではホラーや怪談映画になりますよね。『ツィゴイネルワイゼン』もそういう持って行き方をしていますが、『眠り姫』は怪談映画とは絶対言わないし、ホラーじゃないですよね。

分類されないものにしようという意思が働くのは僕の天邪鬼なところですかね。ジャンルとジャンルの狭間であるものを目指すというか。

──そういう意味では、映画について考えたいという人間には、非常に挑発的な映画になっていると思います。

間口は広いと思うんですけど(笑)、映画について考えるというと何か高尚な事をやっているようですけども、描きたいものは誰の日常にでもあるちょっとした憂鬱とか、クサクサした気分とか、ぼんやりとした時間なんかを描きたいんですよね。
 
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『ホッテントットエプロンースケッチ』
 
──では次に12月8日(土)から14日(金)までシネマアートン下北沢でレイトショー公開される『ホッテントットエプロンースケッチ』に行きたいと思います。

これは愛知県の芸術文化センターの依頼を受けて撮った作品です。ここは毎年もう15年位に渡って刺激的なアートフィルムを撮っているんですね。今までに勅使河原三郎さんや、ダニエル・シュミットさん、キドラット・タヒミックさん等が通常では企画が通りづらいような内容で撮っています。

──関係者が『眠り姫』を観て、という事だったんですか。

きっかけは『のんきな姉さん』の時に一緒に上映した短編映画を気に入られて、監督の候補に選んでいただいたんです。公的な仕事なので2005年に制作する人間を2004年に決める訳です。ちょうど『眠り姫』の準備に入っている時に決まったと正式に連絡がありました。これでまた変なものがとれるぞと(笑)、イベント直後から慌てて撮り始めました。

──それは制約なく自分が好きなようにやれたんですか。

愛知の作品は身体について作りなさいというのが毎年のテーマなんですね。これはなかなか難しいんですが。僕が出したのはオリジナルではなくて、新柵未成さんという女性の方が書いた「ホッテントットエプロン」という詩のような作品を原案にした企画です。痣のある少女の心の揺れ動きみたいなものが描かれていて、痣といえば身体なのでこれで行きたいと提出したら、OKだったのでよし行こうと(笑)。

──愛知県、面白いですね。

制作した後に交流を持つようになったんですが、ほとんど1人でやられているんですよ。学芸員の越後谷さんという方ですが、名古屋の怪人と呼ばれているらしくて(笑)。

──そういう方がいるって事は心強いですよね。この作品もユニークでストーリー的に語る事はほとんど不可能ですもんね(笑)。

そうですね、『眠り姫』は人がいないけどストーリーはある。『ホッテントットエプロン』は人はいるけど台詞がない(笑)。原案の世界には下敷きとして「不思議の国のアリス」があったり、僕が持ち込んだ「ハメルンの笛吹き」があり、赤い糸もミノタウルスの神話からきていたり、と寓話的な要素はあるので、ストーリーのないイメージの羅列ではないんですが、確かに語るのは難しいかも知れないですね。

──主演の阿久根裕子さんは現実的な強さを感じさせる表情をしていました。

古厩監督の『まぶだち』(00)でデビューした女優さんです。あの年頃の不安定さみたいなものをすごく感じさせる独特の魅力がありますね。

──衣装は微妙に変えていますよね。

今回は手作りで映画を作ろうというのがテーマで、撮影とか美術とか各パートに分かれずにみんなでやったんですね。でもさすがに衣装だけは作れないので、普段は社交ダンスのドレスを作っている方に知り合いがいたのでお願いしました。部屋にできていく痣は粘土で作っているんですけど、これがいいっていう粘土の在庫がそうはない、200個必要だからといって都内中の店を回ってもらって買い占めました(笑)。赤い毛糸も同じお店で買いました。何玉買ったかな。みんなで図画工作みたいにやったんです。楽しい逸話ですよね、って思っているのは僕だけかも知れないですけど(笑)。

──どこでロケをしたんですか。

勝浦の方にスチールの宮沢君の家の別荘があったんです。それを取り壊すから燃やす以外なら何やってもいいよ、と提供していただけました。

──小川のシーンはその近くですか。

あれは長野です。牛を撮らせてもらえる牧場を探していて、高原の方で東京ドーム何十個分の広い所でした。そこで牛のオーディションもしました(笑)。
 
──これも生演奏付きで上映したんですよね。生演奏にはこだわりがあるんですか。

生演奏そのものより、ライブへのあこがれがあるんです。芝居、コンサート、寄席とかには観客と舞台の生の呼吸がありますよね。それが映画ではどうしてもクールになってしまうのが悔しくて、映画でライブをやりたい。映画を色んな形で見せる事をやってみたいんです。

──ライブ感を味わいたいと。

ライブ感は毎回味あわせてもらっています。生演奏は楽しいですよ。『眠り姫』は音楽を担当している侘美君の室内楽団なんですが、『ホッテントット』は違う事をやろうと思って、侘美君を中心にアルバート式という昔のクラリネットを吹くミュージシャンとか、ハープ、オルガン、パーカッション、トランペットのミュージシャンに集まってもらいました。そして即興で録音したものを侘美君が流れを決めてやるという形で上映しました。でもライブなので回ごとに演奏が違うんですよね。2日間やったんですけど、2日目のはじめにちょっと映写のトラブルがあって、それが逆にミュージシャン達を奮い立たせたというか、演奏が物凄くて感動しました。

──それは立ち合いたかったですね。

12月の上映は録音したものなんです、本当にすみません。

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『マリッジリング』

──次は同じく12月8日(土)から銀座シネパトスほか全国順次ロードショー公開される『マリッジリング』です。これは渡辺淳一原作ですね。

よくこの原作を僕にやらせてくれましたよね(笑)。

──助監督時代の経験があって、こういう作品もしっかり撮れるという典型ですよね。

だからとても楽しかったです。久しぶりに古巣に戻ってきたような感じでした。それまでの2年近くが異種格闘技ではないですけど、型にはまらない事をやろうとしていたので。今回はちゃんと人も出てくるし、セリフもあるし(笑)。

──ストーリーも非常にわかりやすいですしね。

この作品は1週間ちょっとの短期間で撮ったんですよ。でもそういうのは散々Vシネマで助監督してきたので、勝手知ったる我が家みたいな感じでした。

──あれだけの尺で1週間といったら、1日にかなり撮ったんじゃないですか。

1日に台本で13ページ、いや17ページかな、撮った事がありましたね。

──徹夜なしですか。

なしです。(車の)送りもなしで21時過ぎ位までに撮り終えた時は、制作担当から「神様のようです」と言われました(笑)。それっていい事なのかなとも思うんですけど。

──主演の二人(小橋めぐみ、保阪尚希)が決まった経緯は?

小橋さんは最初知らなかったんです、でもこの方はどうでしょうかと言われて会った時に、目が大きくて色んな事を想っている顔ができる人だなと思って選びました。
保阪さんは…。びっくりですよね、僕と数々のドラマで主演を張ってきた保阪さんの顔合わせっていうのは。最初は低予算の現場に順応してくれるのか、すごく心配したんですよ。でも駆け出しの頃、深夜ドラマに出ていた時はもっと酷いスケジュールだったからそういうのは慣れてるよみたいな話になって。確か僕と年も同じなんですよ。煮詰まっているというか、今後の人生にぼんやりとした不安を抱える疲れた男の感じをとてもよく出してくれましたね。

──今まではわりと強いイメージがあったので、疲れている感じが逆に良かったですね。ロケ地がしっかりしていて低予算な匂いはしませんでしたが。

それは制作部が優秀でした。僕は地明かりできれいに見える所をリクエストしたんですけど、洒落た所を探してきてくれました。川崎のチネチッタとか、パルテノン多摩とか中心部ではないんです。あとは再開発されたきれいな所とか、新橋の汐留の近くなんかもありました。
 
──ロケ地の統一感がとれていて、都会の大人の雰囲気というのが出ていましたね。

話としては、六本木とかに本社のある大企業で企画開発とかしていた人が、何かの理由で川崎あたりの出張所に配属されたという感じをねらったんです。だから営業所はちょっと古い感じだけど、最近まで都内の中心部で働いていたからそこにデートしに行く。その対比というか、男のこんな所で終わるのかみたいな腐った感じを出したかったですね。

──原作もそういう感じですか。

そのあたりは現場で作って行きました。原作は指輪をはずした白いあとを見たら急に冷めたというだけの話なので、それを脚本の西田直子さんが膨らませてくれて、僕が味付けした感じです。だから渡辺淳一さんの原作ですけど、映像化には西田さんの力が大きいですね。

──主人公の奥さんのキャラクターが興味深いんですが。

あれは西尾まりさんのおかげですね。実際に会って台本読んでもらって説明して、インの前日に衣装合わせして、インの当日に出演シーンのほぼ全てを撮り終えたんです。西尾さんだから出来たと思いますね。全然準備不足を感じさせない、ポンとその場にいました。

──変におどおどしない、落ち着いた雰囲気で見事でした。

夫婦の微妙な目配せの演出は細かくやりました。それはこうしてください、という具体的な事ではないんですが感覚的にちょっとという話ですね。西尾さんも保阪さんもそういう表現がうまいんですよ。

──そうですね、2人の距離感が微妙な芝居で表わされていました。

こういう事は他の2作品では出来なかったので(笑)、久し振りにやりたかったです。

──小橋さんは大胆なシーンがかなりありますが。

彼女としてはすごい冒険だったと思いますが、全くこちらが心配するような事もなく撮影出来ました。そのあたりは保阪さんがうまくリードしてくれましたね。保阪さんに対してもこんな濡れ場を要求していいんだろうかと思いましたけど、ちょうど『蒼き狼〜地果て海尽きるまで〜』(07)でカラミがあった後だったので、大丈夫だよと。なんかこっちの方が気を使っている(笑)。

──ここまで激しくカラミをやるのかなと思ったんですが。

原作の濃厚さを実現出来ているとは思えないけど、僕なりに頑張りました(笑)。もちろん指示をして決めていきますが、保阪さんからも色々と提案してくれました。

──脇の配役が面白かったですね。

田口浩正さんとは、僕が田口さんの監督作品で監督補をした事があって、それ以来久々の邂逅だったんですけど、バイプレーヤーとしてはベテランですからね、僕が何か言う事もないし、矢沢心さんは本当にうまいですね。

──脇役として主役を立てる演技に感心しました。ある程度名前のある女優さんだと、負けん気が出て何かやりそうですけど、役の範囲で適度に遊ぶというかやりすぎない。

すごく勘が良くて読み合わせの時につかんでくれたんだと思います。だから現場に入った時はどんどん撮りました。やはり役者に恵まれたというのが早撮りできた大きな理由ですよね。

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『マリッジリング』

──監督としてはどう人に観てほしいですか。

渡辺淳一さんのファンはきっと何も言わなくても観に来て下さるとは思うんです。逆に渡辺さんの原作を読んだ事も無いような女性に観てほしいですね。

──指輪をはずして自分とセックスした男に冷める、というのはちょっと議論したくなりますよね。

高橋一生くんの演じた男に感情移入する男性も多いと思います。

──そうですよ(笑)、観た後に男女問わずああだこうだと言い合える。ここをしっかり観てほしいというシーンはありますか。

全部です(笑)。これは原作にはない所ですが、僕のやりたい事の一つに、どんな事があっても次の日は来て、そして人生は続くという事があるんです。それがキャッチボールのシーンに繋がるんですが。
 
──ということで3本それぞれにうかがってきましたが、監督作品が3本一挙公開されるというのはどんな気持ですか。

この3年間にやって来たものが、たった2か月間でもったいないな、というのが正直な感想です(笑)。

──でも、監督としては目立ちますよね。

うれしい半面、小出しに細く長く出していただいた方が・・・という気持もありますね(笑)。次の作品がいつになるかわかりませんから。

──しかし同じ監督が撮ったとは思えない、3本とも本当にタイプが違う作品です。その振り幅を味わうのが観客の楽しみになりますね。

是非、3本とも観てほしいです!(笑)

(聞き手:夢月亭清麿 構成:加瀬修一)


〈イベント告知〉
『眠り姫』劇場公開記念ライブ
【Live before the Day Breaks ~寝た娘をおこすな!~】
11月6日(火)〜11月11日(日)
会場   渋谷ギャラリー・ルデコ3F
     東京都渋谷区渋谷3−16−3 ルデコビル
TEL  03−5485−5188

期間中は常設の写真展とともに日替わりで様々なジャンルのライブが開催されます。11月9日(金)は監督たっての希望で、今回のインタビュアーである夢月亭清麿師匠が『眠り姫』からインスパイアされた新作落語を披露。夢、幻か怪談か、寄席『眠り姫』にも乞うご期待!

※ライブの詳細は下記アドレスでご確認下さいますよう宜しくお願い致します。
眠り姫公式サイト:http://www.nemurihime.info/CONTENTS/event.html 

〈作品情報〉
『眠り姫』
監督/脚本/撮影:七里圭 
原作:山本直樹 企画:越川道夫 プロデューサー:棚沢努 平林勉 撮影:高橋哲也 音楽:侘美秀俊
声:つぐみ 西島秀俊 山本浩司

『ホッテントットエプロンースケッチ』
監督/撮影:七里圭
企画:愛知芸術文化センター 原案:新柵未成 プロデューサー:藤田功一 平林勉 撮影:高橋哲也 人形:清水真理 音楽:侘美秀俊 スチール:宮沢豪
出演:阿久根裕子 ただてっぺい 大川高広 井川耕一郎

『マリッジリング』
監督:七里圭
プロデューサー:今井朝幸 原作:渡辺淳一 脚本:西田直子 七里圭 撮影:高橋哲也 音楽監督:侘美秀俊
出演:小橋めぐみ 保阪尚希 高橋一生 中村麻美 矢沢心 西尾まり 田口浩正


タグ:夢月亭清麿
posted by 映芸編集部 at 00:00 | インタビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする