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2013年01月26日

『あるいは佐々木ユキ』レビュー
暁方ミセイ(詩人)

わたしと世界とユキと。見えるもののすべてへ。
暁方ミセイ(詩人)



 去年の十二月に訪れた渋谷の小さな試写会会場は、路地を曲がり、地下への狭い階段を見つけて下りて行き、見覚えのある淡いベージュの『あるいは佐々木ユキ』のポスターが貼ってあることだけが確かにここで間違いないと信じられるドアを開けたところにあった。わたしはコートを着たまま、なんだか緊張して上映を待っていた。同時にその夏、黄金町の映画館で、『わたしたちの夏』を観たときも、映画が始まるまでは周囲の他人が気にかかって所在無かったことを思い出していた。
 映画が始まると、我々観客は暗闇の中に一人きりにされ、映画と一対一になる。
 それがいい映画のときは、ふと気がついたとき、周囲との温度差が埋まって、劇場の暗室がひとつの、運命共同体の箱舟のように揺られている感じがする。『わたしたちの夏』では、そういう感じがした。そして最新作『あるいは佐々木ユキ』もまた、心地よい共有感を味わった映画だった。

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 福間監督の撮る映画には、体温があると思う。
 それは単に人間味が溢れているだとか、現代の若者がリアルに描かれているだとか、そういうことではなくて、一人の女の子が、自分の世界と、他者と共有する世界とを、入子状に何重にも持っていて、その卵のような大切な体で、世界と共鳴しながら生きている「普通の女の子」という温もりが、本当によく描かれていると思う。
 わたしが作中、最も好きなシーンが、ユキの通学するモノレールの車窓から、ずっと、かなり長いカットで、立川の街と夕日が映されるシーンなのだが、あれを見ているだけで、ユキという女の子の生きている時間を大切に感じた。そしてその画面全部を埋めた視界が、そこに乗り合わせる乗客たち、この夕日をここで見ているわたしたちもまた、「ユキ」であると知らせるのである。

 特別ではなく撮られたものたちが、特別に美しくなるのも、福間監督の作品の特徴だと思う。
 ストーリーにとっておよそあってもなくてもいいシーンなのに、どうしても覚えていて思い出してしまうシーンがある。ユキがひとりでご飯を食べていて、ご飯粒が手にくっついて、それをぺろっと啄ばむように食べる場面だ。他にも、ある一箇所の声の抑揚の感じだったり、カルタ遊びの長い長いカットの、びっくりするくらいのなんでもなさの中にある、愛おしさだったり、そんなところばかり覚えている。
 試写会の後、福間監督にお話を伺ったとき、「明日失明すると知ったときに、見ておきたいと思うものを撮った」とお話されていたが、実際この映画には、死期の目で撮ったような、はっとするほど美しいありふれた世界が収められていると思う。前作『わたしたちの夏』では、夢や、死者が帰ってくるなど、異世界がすっとこちらに、涼しい風のように流れ込んでくる夏の時間が描かれていたが、今作では、より身近で、より近いところで、詩情が発光している。また、映像重視で、話も抽象的でありながら、むやみな「お洒落感」がないのも、好ましいところだと思う。ちゃんと、東アジアで撮った作品であると思う。
 
 もう一つ、どうしても触れておきたいのが、主演の小原早織さんのことである。
 彼女の存在は、ほとんど魔力と言ってもいい。
 普段はただの学生だという彼女の魅力については、既にもう随所で語られていると思うが、素人らしくていいとか、普通っぽいところがいいとかの、最近ありがちなB級嗜好とは全然違う。福間氏は同じ試写会後の席で、「彼女の目には力があって、ジプシーの少年の目だ」とおっしゃっていた。目や仕草や表情や声で惹きつけられても、それは彼女の方から強烈に発信されたものではない。彼女はただまっすぐに、スクリーンに向かって立っている。だから我々は、その魔力に予め身構えることができない。
 多分、恋をしてしまう。そんな意味で、ふと、作中に出てくる『人魚姫』と同じ人魚のローレライを思い出したりもする。

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  大切なものを入れておくとっておきの箱のような映画で、しかし宝物の宝石のようには大人しくはしていない、ユキたち。この映画に撮られたすべてのものに、多くの方が、祝福をしてくださることを祈って。




『あるいは佐々木ユキ』
監督・脚本:福間健二 製作:福間恵子
撮影:鈴木一博 編集:秦 岳志 音響設計:小川 武
音楽:大川美由子 吉田孝之 助監督:西野方子 細谷周平 酒井 豪
出演:小原早織 吉野 晶 千石英世 文月悠光 川野真樹子
配給:tough mama
2013/HD/カラー/79分

ポレポレ東中野にてモーニング&レイトショーにて絶賛上映中
ポレポレ東中野 http://www.mmjp.or.jp/pole2/
公式ブログ  http://sasakiyuki.doorblog.jp/

イベント情報
1月27日(日) 21時の回上映前 福間健二監督による詩の朗読
1月29日(火) 21時の回上映後 小原早織(主演)+福間監督トーク

当日料金:一般¥1500 学生¥1300 シニア¥1000
* リピーター割引:半券ご提示で、2回目から¥1000に。
* ポエトリー割引:どんな詩集でもご提示で、一般のお客様も学生料金に。詩集をポッケに映画を見に行こう!

posted by 映芸編集部 at 19:33 | レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月21日

「映画芸術」2012年日本映画ベストテン&ワーストテン決定 ! !

「映画芸術」誌の2012年日本映画ベストテン&ワーストテンが決定しました!!
配点の詳細および選評については1月30日(水)発売の本誌442号(定価1500円)にて掲載致します。


【ベストテン】
1位 『かぞくのくに』(監督/ヤン・ヨンヒ)
1位 『苦役列車』(監督/山下敦弘)
3位 『Playback』(監督/三宅 唱)
4位 『旧支配者のキャロル』(監督/高橋 洋)
5位 『桐島、部活やめるってよ』(監督/吉田大八)
6位 『先生を流産させる会』(監督/内藤瑛亮)
7位 『黄金を抱いて翔べ』(監督/井筒和幸)
8位 『ライク・サムワン・イン・ラブ』(監督/アッバス・キアロスタミ)
9位 『その夜の侍』(監督/赤堀雅秋)
10位 『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(監督/入江 悠)
*『かぞくのくに』『苦役列車』は同率1位


【ワーストテン】
1位 『希望の国』(監督/園 子温)
2位 『ヒミズ』(監督/園 子温)
3位 『夢売るふたり』(監督/西川美和)
4位 『アウトレイジ ビヨンド』(監督/北野 武)
5位 『あなたへ』(監督/降旗康男)
5位 『ヘルタースケルター』(監督/蜷川実花)
7位 『悪の教典』(監督/三池崇史)
8位 『鍵泥棒のメソッド』(監督/内田けんじ)
8位 『桐島、部活やめるってよ』(監督/吉田大八)
8位 『終の信託』(監督/周防正行)
*『あなたへ』『ヘルタースケルター』は同率5位
*『鍵泥棒のメソッド』『桐島、部活やめるってよ』『終の信託』は同率8位
posted by 映芸編集部 at 16:22 | レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月07日

「ぼうふら脚本家 神波史男の光芒 この悔しさに生きてゆくべし」
大好評発売中!

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ぼうふら脚本家 神波史男の光芒 この悔しさに生きてゆくべし
A5/388ページ/2012.12月増刊号/2200円

60年代以後の日本映画界で悪戦苦闘した異能の脚本家神波史男。
その全体像を追う濃密の一冊!
【目次】
《未映画化シナリオ》
「いつかぎらぎらする日」解題:大原清秀
「愛人」解題:荒井晴彦
《シナリオハンティング》暴風圏日記
《全遺文》
1映画論:深作欣二論、『袋小路』『プライド 運命の瞬間』『フルスタリョフ、車を!』その他映画評。
2追悼文:松田優作、三浦 朗、山田隆之、齋藤博、藤田敏八、永沢慶樹、田村 孟、相米慎二、深作欣二、鈴木尚之、岡田 茂、奥山耕平
3書評:「映画脚本家 笠原和夫 昭和の劇」他。
4自作諸々:『女囚701号 さそり』『仁義の墓場』『野獣刑事』『火宅の人』その他自作ついて
5映画祭に寄せて:湯布院映画祭、くまもと映画祭パンフレットに寄せた文章。
6随想諸々1:「シナリオ」誌掲載「作家通信」、食べ物エッセー「甘口辛口」
7随想諸々2:飼い猫や脚本家仲間達についてのエッセイ。
《ショート・シナリオ》タマ
流れモノ列伝 ぼうふら脚本家の映画私記
日記 2005年2月12日〜2007年3月10日
神波史男全映画 自作を語る
テレビ・ドラマ+テレビ・アニメ作品一覧
《神波史男に寄せて》
小野竜之助、馬場英彦、福田善之、松本 功、小平 裕、蜷川有紀、深作健太、向井康介

コチラでもご購入いただけます 
posted by 映芸編集部 at 21:02 | レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年10月26日

10月30日、「映画芸術」最新号(441号)発売!!!

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B5判、152頁、1500円(税込)

【特集 日本映画、闇を描く】

『その夜の侍』
インタビュー 赤堀雅秋(監督)
インタビュー 藤村恵子(プロデューサー)

『悪の教典』
インタビュー 三池崇史(監督)

〈論考〉山本政志(映画監督) シャキッとした暴力映画たち

『ふがいない僕は空を見た』
インタビュー 田畑智子(主演)

『戦争と一人の女+私の奴隷になりなさい』
〈対談〉 寺脇 研(映画運動家)×大森氏勝(プロデューサー)

〈論考〉渥美喜子(挙結梭ュ美組代表取締役) 不幸というネタ、希望というオチ

〈総論1〉平澤竹識(本誌編集部) セックスと暴力の先に、映画の光と闇を見る
〈総論2〉石飛徳樹(朝日新聞記者) 2010年代のネガティブ・エンターテインメント その背景にあるもの

【特別座談会 脱ロマンポルノ幻想 ブームの陰で看過された諸問題】
藤原章生(毎日新聞 夕刊編集部)×菊地 香(サンデー毎日 編集部)×寺脇 研×荒井晴彦(脚本家・本誌編集長)×勝田友巳(毎日新聞 学芸部)

【インタビュー】
ラウール・クタール これまで美しい映像は撮ったことはない 正確に早く撮ること そして絶対にノーとは言わないこと これが私のやり方です

【追悼】
アーネスト・ボーグナイン
渡辺武信(建築家・詩人) 鬼軍曹から演技者へ そして真の“heavy”へ

トニー・スコット
梅本洋一(映画批評家) アメリカ映画は貴重な映画作家を失った

安川奈緒
三木昌子(元思潮社編集者) 「MELOPHOBIA」前後のこと
八柳李花(詩人) 思うこと守ること

【連続斗論B 映画『ラブ沖縄@辺野古@高江』をめぐって】
〈鼎談〉西部 邁(評論家)×佐高 信(評論家)×寺脇 研 
映画は沖縄の無言の声を聞いたのか

【震災−映画】
萩野 亮(映画批評) 映画は始まり、終わる 「震災」を撮るということ

【特別対談】 
松浦寿輝(詩人・小説家)×荒井晴彦 脚色の流儀 映画と文学の意外な関係?

【シリーズ ジャンルから見る私の映画史「サスペンス映画」】
大林宣彦(映画作家) 桂 千穂(脚本家・評論家) 上島春彦(映画評論家) 中村征夫(テレビプロデューサー) 川口敦子(映画評論家) 佐藤昌弘(京急開発且謦役社長) 大野直竹(大和ハウス工業且ミ長) 長谷川法世・悦子(漫画家・博多町家ふるさと館長/博多ごりょんさん・女性の会) 浦崎浩實(激評家) 河村雄太郎(昭和映画愛好家) 青山真治(映画監督) 千浦 僚(「オーディトリウム渋谷」支配人・映画感想家) 稲川方人(詩人・本誌編集部) 荒井晴彦

【新作日本映画評】
『黄金を抱いて翔べ』柏原寛司(映画監督・脚本家) ジャンルで見るか 作家で見るか
『終の信託』今泉力哉(映画監督) 夫婦とは何なのだろうか?
『希望の国』山嵜高裕(詩人) 圏内で園子温の詩を読む
『100万回生きたねこ』『Playback』『愛のゆくえ(仮)』『バビロン2』
中島一夫(文芸批評家) 歴史=記憶から離れた場所で 

【新作外国映画評】
『危険なメソッド』古谷利裕(美術家) 置き去りにされるユング
『菖蒲』川口敦子(映画評論家) 映画の重構造に、芳香と腐臭が流れる
『アルゴ』川瀬陽太(俳優) 川ちゃん 怒りのテヘラン

【書評】
磯田 勉(フリーライター) 関根忠郎著「関根忠郎の映画惹句術」
小野俊彦(フリーター) 津村 喬著「津村喬精選評論集 《1968》年以後」
伊津野知多(映画研究者) 山田宏一著「トリュフォーの手紙」
平澤竹識 デヴィッド・ギルモア著「父と息子のフィルム・クラブ」
千浦 僚 中原昌也著「エーガ界に捧ぐ 完全版」
新城勇美(会社員) カール・イグレシアス著「脚本を書くための101の習慣 創作の神様との付き合い方」
黒岩幹子(映画批評) オリヴィエ・アサイヤス著「5月の後の青春 アリス・ドゥボールへの手紙、1968年とその後」
編集部の一冊 浜田光夫著  「青春 浜田光夫「キューポラのある街」−あれから50年」

【連載】
青山真治×稲川方人×荒井晴彦「DVD NEW RELEASE」
大木雄高「「LADY JANE」又は下北沢周辺から」
長谷川元吉「映像(ムービー)カメラマン解体新書」
白坂依志夫「白坂依志夫の続・人間万華鏡」
荒井晴彦×寺脇 研「韓米★映画合戦」
「OUT OF SCREEN」土屋 豊(「独立映画鍋」共同代表・映画監督)
わたなべりんたろう 日本未公開傑作ドラマ紹介

※最新号の購入はコチラからも可能です。
posted by 映芸編集部 at 18:41 | レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年10月23日

管理人より読者の皆様へ

日頃より映画芸術DIARYを読んでいただき、ありがとうございます。

前任の武田俊彦さんが2007年4月にこのサイトを開設してから5年が過ぎました。2008年に私が運営を引き継いで現在に至りますが、今月限りで映芸を辞めることになり、今後の記事の更新が難しい状況です。別のスタッフへの引継ぎを進めてはいたものの、残念ながらうまくいきませんでした。夏以降、サイトの更新が途切れがちになっていたのはそのためです。今後、編集部の体制が整ってくれば、記事の配信を再開する可能性もありますが、それがいつになるかは分かりません。当面は編集部からのお知らせなどを掲載するだけになると思います。

映芸ダイアリーズのメンバーと話し合った際には、どういう形であれ継続したほうがいいのではないかという意見も出ました。ただ、「映画芸術」本誌の作業がおろそかになるようではサイトを続ける意味がありませんし、かといって外部の方に運営を任せることもできません。継続を重視するあまり、持込の記事や売込の企画をそのまま掲載するような場にはしたくないという、私自身のこだわりもありました。読者の方には大変申し訳なく思っていますが、ご理解いただければ幸いです。

最後に、映芸ダイアリーズのメンバーにこの場を借りてお礼を言いたいと思います。若木康輔さん、金子遊さん、深田晃司さん、近藤典行さん、萩野亮さん、そしてCHIN-GO!こと千浦僚さん、加瀬修一さん、どうもありがとうございました。みなさんと忌憚なく映画について語り合えた時間は自分にとって宝物です。

2012年10月23日 平澤竹識
posted by 映芸編集部 at 14:21 | レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする